友達
話している間にも、院長の体はドンドン消えていっている。
マズイマズイマズイ。どうにかしないと。
焦って周りを見回すと、グレイと目が合った。
「グレイ隊長! ウィスタリアとクロッカス殿下の時みたいに、二人の魂を切り離背ますか!?」
あの神技ならなんとかなるんじゃないか!?
ちょうど院長も長髪になってるし!
しかしグレイは冷静な表情で首を横に振った。
「無理だ。ウィスタリアと兄上の時と違って、アンバーと『雪の妖精』は完全に同化してる。このまま切ってもお互いの魂が傷つくだけだ。試しても絶対に上手くいかない」
グレイがここまで言い切るなら、本当に無理なんだろう。
グレイの勘……というか、未来視が成功しないと言ってるんだから、試しても無駄だ。
私がグレイと話している間に、クロッカス殿下がふらりと立ち上がって、院長の胸元に掴みかかった。
「なんでそんな事をした! お前なら予想出来ただろう! 命の危険を冒してまで、オレを助けなくても、他に方法が……」
「ボクは自分の命より、貴方の方が大切だったんです」
院長らしくない静かな声と真っ直ぐな瞳に貫かれて、殿下の動きが止まる。
驚いた表情の殿下に、院長は穏やかに微笑んだ。
「同化しても、生者のボクに引っ張られて生き残る可能性もありました。半々くらいだったんですけど、賭けに負けただけです。運がなかったと思ってください」
達観したような、全て受け入れた悟りを開いたような表情の院長を、殿下は睨みつけた。
「お前もリリーも、オレを助ける為に勝手にいなくなるな! オレは……オレは一緒にいてくれれば、それで良かったのに……」
「ボクと姉さんも同じ気持ちですよ。ただ、一緒にいる事より、貴方に生きていて欲しかった。それだけです」
変わらず穏やかな表情の院長の言葉に、殿下が視線を落として声もなく涙を流す。
マズイ。最終回みたいな流れになってる。なんとか阻止しないと。
「それにボクがいない方が世界は平和でしょ。国の為にもボクはいない方が良いって、グレイも言ってたよね」
院長が軽口を叩くように肩を竦めて、笑ってグレイを見る。
確かにグレイは前にそんな事を言ってたけど、あれもただの軽口のはずだ。
院長もグレイま、先程熱い拳を突き合わせてた仲だ。本心のはずがない。
私も慌ててグレイを見た。
グレイは真っ直ぐに院長の視線を受けて、口を開いた。
「そうだな。国の為にも兄上の為にも、お前は死んだ方が良いと思ってるよ」
キッパリ言い切った。
しかも真顔で。
「グレイ隊長……! そんな言い方……!」
私が思わず声を荒げようとしたら、グレイがチラリと私に目をやる。
「こいつに嘘ついてどうすんだよ。アンバーは能力の割に精神が幼い……いや弱いから、ちょっとした事で王都を吹っ飛ばそうとするし、水害だろうが地震だろうがいつでも起こせるんだぞ。メンタルがやられて大惨事を引き起こしかねない奴なんて、いない方が国の為だ」
「確かに院長はメンタル弱弱だから、否定出来ないですけど……」
クロッカス殿下がウィスタリアを封じてた時も危なかったし、そもそもがDLCのボスだからな……。
「サクラ? ちょっとは否定してよ」
私に言われるのはショックだったのか、院長が悲しい顔をする。
しかし私の話はまだ終わっていない。私はグレイを決然と見上げた。
「院長が馬鹿やらかした時は、私が殴って止めますよ。グレイ隊長も同じ気持ちじゃないんですか? グレイ隊長だって、院長が何かやらかしたら絶対に止めるって言ってたじゃないですか」
院長を殺すんじゃなくて止めるって言ってたのは、他ならぬグレイだぞ。
グレイは私の言葉を受けて、グレイはため息をついた。
「頭では排除するべきだって思ってるんだが……だからって幼馴染に死んで欲しいわけじゃねーんだよ! この馬鹿が!」
グレイに怒鳴られて、院長はキョトンとした後、嬉しそうな笑みを浮かべた。
理性と感情は別物だ。
やっぱりこの二人、友達同士だよな。




