降臨
全てが丸く収まってホッとしていると、突如光の入らないはずの天井が虹色に輝く。
驚いて上を見上げると、天井に虹色に光る輪が出来ていた。その中から誰かが舞い降りてくる。
神々しい光を伴って舞い降りてきたのは、古代ギリシャのような白い布を纏った女性だ。角度によって虹色に輝く髪と、オーロラの瞳を持って優し気な微笑みを讃えている。
そしてその女性の顔は、アイリスにそっくりであった。
『虹の女神』だ。
どうやら葵やアイリスの儀式が成功したようだ。
最高神と同じ顔ってのが、ゲームの主人公のチート感を押し上げている。
全員が見つめる中ふわりと地下に降り立った『虹の女神』は、微笑みを讃えたまま口を開いた。
「我が子ウィスタリアを救っていただき、感謝します。私の思惑をはるかに超えて、貴方方はウィスタリアの為に尽力してくださいました。人と妖精と、神が協力して世界を豊かにする―――私の願いの結晶のような物を見させていただきました」
『虹の女神』は心からの笑みを私たちに向ける。
『虹の女神』の思惑とは、恐らく葵の事だろう。
別の世界からの転生者を使って、このバグだらけの世界をクリアし、ウィスタリアを助ける。
でも葵だけじゃ足りなかったし、私だけでも足りなかった。
アイリスもクロッカス殿下も攻略対象の皆も、院長やスノウだっていないとウィスタリアは助けられなかったのだ。
しかし院長は『虹の女神』に頭を下げた。
「元々は我らの先祖の過ち。当然のことをしたまでです」
院長の言葉に『虹の女神』は笑って首を横に振った。
「いいえ。ウィスタリアを助けたのも、妖精の血を分けた貴方方がいたからです。必ずや礼を致しましょう」
確かに『雪の妖精』の子孫ってウィスタリアの王族にも流れてるし、皆が頑張ったって事で『虹の女神』も許してくれたのだろう。
心が広くて助かる。流石、最高神。
そして『虹の女神』は、相変わらずクロッカス殿下を抱きしめたままのウィスタリアに目を向けた。
「さぁ、帰りましょう。ウィスタリア」
「え~? でもエンディミオン……クロッカスの事も気になるし、孫も可愛がりたいし、もうちょっとイケメンにチヤホヤされたいんだけど~」
コイツ、反省してない。
イケメンパラダイスを築いた後に、『雪の妖精』に拉致監禁されてたのをもう忘れたのか?
可愛らしくぶー垂れるウィスタリアに、『虹の女神』の微笑みが一瞬引きつったように感じた。
『虹の女神』が地を滑るようにスーッと移動して、ウィスタリアに近づく。
よく見れば『虹の女神』は地に足をつくことなく、数cm浮いている状態だ。
ウィスタリアの近くまでやってきた『虹の女神』は、ウィスタリアをクロッカス殿下からべりっと引きはがした。
『虹の女神』はウィスタリアの両腕を捕まえたまま、宙にふわりと浮き上がる。
戸惑うウィスタリアを正面から見て、『虹の女神』は笑顔を消した。
「ウィスタリア。貴女は勝手に地上に降りて、人や妖精に混乱を与えたのです。さらには感情を暴走させて、危うく地上の生物すべてに危害を加えるところだったのですよ。反省しなさい」
お母さんかな? お母さんだったわ。
親からの本気のお説教を受け、ウィスタリアはしょんぼり……していなかった。むしろ頬を膨らませて、ムキになっていた。
「だって退屈だったんだもん! お兄様やお姉様は地上に行って、私だけ残ってるのが嫌だったの! 私だって地上で遊びたいわ!」
勝手に天界から飛び出すヤンチャガールだったのか、ウィスタリア。
エンディミオンがヤンチャだったのは、ウィスタリアの遺伝か?
呆れて全員でウィスタリアを眺めていたら、『虹の女神』がそれに気づいたのか、体裁を整えたような微笑みを讃えて私たちを見下ろした。
「我々は天に戻ります。この感謝は忘れません。後で必ずお礼をさせますので……」
話しながら『虹の女神』は上へ上へと昇っていく。
ウィスタリアは抵抗しているようだが、『虹の女神』にガッチリ腕を掴まれていてなすすべはない。
やがて現れた時と同じように七色の光を伴いながら、『虹の女神』とウィスタリアは天界へと帰って行った。
きっと天界でお説教されるんだろうな……。




