手紙
そんな会話をして、宿舎に戻ると服が届いていた。
しかも部屋の中の机の上に。ご丁寧にラッピングされて手紙まで添えてある。
どうやって部屋の中に入ったんですか? 不法侵入???
辺りを見回しても特に荒らされた形跡はない。
むしろ増えてるんだけど。何で?
恐々と手紙を拾い上げると差出人の所に『ホワイト』と書かれているのが見えた。
『ホワイト』は院長が使っている名前だ。明らかに偽名っぽいし、本人がそう名乗るのをあまり見たことがないのでずっと『院長』と呼んでたけど。
考えてみたら、院長を知ってる人たちも名前呼びを避けていた気がする。院長は名前を呼んではいけないあの人みたいな存在なのか?
考えていても仕方ないので、封を切って中身を読んでみる。
『サクラへ。
手紙を書いてくれてありがとう。返事が遅くなってごめん。
ボクは暫く忙しいから会いに行けそうにないんだ。
君も色々聞きたいことがあるのはわかってるけど、残念ながら手紙では書けないことが多い。
でも、必ず会いに行くから待っていてほしい。
その間、危ないことはしないように。
会えないお詫びにプレゼントを同封してある。
君に似合うと思って贈るけど、気に入らなかったら売るなり焼くなり好きにしてね』
美麗な文字は確かに院長の字だ。
それはいい。いや、勝手に部屋に入って置かれてたのは怖いんだけどそれは置いておいて。
どうしてこのタイミングで服を送ってきたんだ。あまりにもタイミングが良すぎる。
今まで私の誕生日でも容赦なく狼の群れに放り込むタイプの人なのに。
『嬢ちゃんの事となると周りが見えなくなって手段を選ばない馬鹿がいる』ってグレイ隊長が前に言ってたけど、まさか院長?
『王の影』使って監視してたりします?
そうだとしたら何やってるんだ、あの人は。他にやることがあるだろう。職権乱用か?
いや、まさかな。わざわざ私にそんな事するはずがないか。
とりあえずこの謎は院長に会った時に問い詰めるとして、同封された洋服を見てみる。
シンプルなロング丈のワンピースだ。桜のように淡くて薄いピンク色が可愛らしい。
似合うかどうか……は、ちょっとよくわからない。なんせ前世でも服も化粧も妹や友達に引きずられて買いに行ってたぐらいだ。
でも院長が似合うと思ってくれたのなら、私より目は確かだろう。
……そう思えるくらいには、まだ私は彼を信用しているみたいだ。こんなに怪しい人なのにね。
せっかくなので、ジェードと出かける時はこれを着て行くことにしよう。一回も着ないのは洋服にも悪いから。
そう言い訳して、私は院長の手紙を机に仕舞った。