儀式
「じゃあ、行ってくるね!」
そう言って手を振った葵は、胸元から指輪を取り出した。
あれは前に見せてくれたワープ出来る指輪だ。それでアイリスの所に交渉に行くのだろう。
「頑張ってね。私も自分のやれることをやるよ」
私も手を振り返すと、葵は頭にモグラを乗せたまま笑顔で消えた。
よし、私も戻ろう。
訓練場から戻ろうとしたら、アンバーが訓練場の入り口で待っていた。
アンバーは私の肩にモグラがいないのを確認すると、納得したように頷いた。
「土の魔術師が足りなかったので、私も彼を脅……お願いしようと思っていたんですよ。ありがとうございます」
「はい」
二人で話しながら歩き出す。
向かうは地下の『王の影』の本部だ。
クロッカス殿下とグレイが待っている。
本部に着くと、アンバーは眼鏡を取っていつもの院長に戻った。
影の人たちは肉塊が暴れていたから避難しているし、殿下たちが待っている奥の部屋に行くまでに詳しい話を聞いても良いだろう。
そう判断して、私は口を開いた。
「『虹の女神』を呼ぶ術式は大丈夫そうでしたか?」
「うん。術式もそうだけど、女神を呼ぶなんて莫大な魔力をどうするんだろうって思ってたけど、城全体が魔力を保持して術式に補填するようになってるんだ。亡くなったエンディミオンや雪の妖精の双子の魔力がそのまま保存されている。あれなら本当に女神を呼べるかもしれない」
お城にも色々仕掛けが施されてたのか。
王都を作ったのはエンディミオンたちだから、それも母親のウィスタリアを助ける為に作った物だったんだろう。
院長は真面目な顔で前を向いたまま歩き続ける。
「丁度フォーサイシアとネイビーが王都に戻ってきたから、そのまま儀式に参加してもらうことになったよ。それにジェードやフラックスもね」
攻略対象が集合だ。
その中の一人に葵が混じってるけど。
あっちには主人公がいるのだ。乙女ゲームらしく、愛の力で成功させてもらおうじゃないか。
攻略対象たちに頑張ってもらう分、私たちも頑張らないと。
そう思って私は院長を見上げた。
「上で『虹の女神』を呼ぶ間に、地下でウィスタリアを浄化しないとですね」
「そうだね。大丈夫。ボクとサクラとスノウなら、ウィスタリアを救えるよ」
院長は自信満々の笑みを私に向ける。
いつもの笑顔だ。
院長に緊張や不安はなく、自分の事も私の事も、スノウの事も信じている。
だから私も笑ってこう返せる。
「院長がそう言うなら、私は信じますよ」




