姉妹
そこまで話を聞いて、ふと疑問に思った。
「今の話がアイリスと攻略対象の話なら、『土』担当の帝国の皇子はどうするの? 皇子がウィスタリアを訪問するなんて予定、聞いてないけど」
攻略対象の一人はサルファー帝国の皇子である。
ウィスタリアを訪問するだけで大々的な物になるだろう。
あの皇子の性格的にも、お忍びで来てくれるタイプではない。
それに、虹の女神の子であるウィスタリアが闇堕ちして封印されているなんて、他国に言う訳にはいかない。バレだらウィスタリア王国に批判が殺到する。
なんせこの大陸では虹の女神が信仰されているのだ。他国からしても、その神の子を長年閉じ込めるなんて不敬にも程がある。
批判された挙句に宗教戦争になりかねない。
サルファー帝国なんて、理由があれば同盟なんて二の次で戦争を仕掛けてきそうだ。そういう国なので。
葵も私の質問に少し困った顔をした。
「そうなんだよねー。虹の女神を呼ぶには、儀式に参加する7人が対等な魔力を一定に出し合わないといけないんだ。でもアイリスや攻略対象に見合う魔力を持った土の魔術師がまだ見つかってないんだよね」
「そりゃそうでしょうね……」
魔力量なんて生まれた時から決まっている。
アイリスや攻略対象は、レベルを上げれば大魔法が使えるくらいに魔力量が多い。
それに対抗出来るのは、ラスボスであるクロッカス殿下や院長だけだ。
しかし二人とも土の魔法使いではない。
グレイ隊長は魔力量じゃなくて、剣技の腕と魔法の使い方が上手いタイプなので割愛する。
そうなると、攻略対象レベルの魔力量を持つ人がポンと出てくるなんて期待出来ない。
そんな人がいたら、すでに有名になっている。
悩んでいたら、葵が話しかけてきた。
「とりあえずウィスタリアだけ助け出して、天界に帰すのは後にする?」
「それはそれで問題が起こる気しかしない」
妖精だって人間と感覚がズレているのだ。『夢の妖精』の一件で実感した。
神の子なんて、お礼と称して何をしでかすかわからない。早々にお帰りいただきたい。
姉妹二人で頭を悩ませていると、私の肩に乗っていたモグラが口を開いた。
「仕方ないな、我が力を貸してやろう」
「土の大妖精サマ!」
そうだった。このモグラ、土の大妖精だった。
あまり妖精に借りは作りたくないけど仕方ない。
何か問題を起こしたら、私が責任を持ってぶん殴ろう。
私の考えを知ってか知らずか、モグラは胸を張ってふんぞり返る。
「いくら力が弱っていても、我はそこらの人間より圧倒的に強い。安心するが良い。それに、我も『虹の女神』にお目にかかれるならば一生の誉れ。他の大妖精に自慢出来るしな」
「ありがとう! 今度美味しい物奢るね!」
モグラに感謝しまくっていたら、葵から変な目で見られているのに気がついた。
そうだった。このモグラ、他の人には見えないんだった。
私は慌てて葵に説明する。
「土の大妖精サマが力を貸してくれるって。ただ、他の人には見えないからどうしよう……?」
私の疑問に、モグラが答えてくれた。
「サクラの妹……弟? まぁどちらでも良いが、一応土の魔法使いだろう。ジャガイモの礼もある。お前が魔法を使うていで、我が力を行使すれば手間が省けるだろう」
なるほど。会話は出来ないけど、それが一番手っ取り早いか。
モグラの言葉を葵に伝えると、葵は驚いた顔をする。
「え? 私!? 私で大丈夫かな……」
私は不安そうな葵の肩を叩き、モグラを葵の頭に乗せた。
「大丈夫。葵は堂々としてれば良いから。それにアイリスと仲が良いんでしょ。理由付ければアイリスが認めてくれるって」
「お姉ちゃん……」
葵はまだ不安そうな顔で、私にぎゅっと抱きついてくる。
私も抱きしめ返して、背中を叩いて応援した。
「別々の場所だけど、姉妹で頑張ろう」
「うん!」
私の言葉で、葵は晴れやかな顔で笑った。
そもそも、アイリスは葵に片思いしてる。
そういう意味でも攻略対象の中にねじ込んでも大丈夫だろう。
恋愛が強い力を持つ、乙女ゲームの世界だから。




