呪いのアイテム
* * *
「そういうわけだから、ボクとスノウが浄化させれば、ウィスタリアは正気に戻るよ」
院長が説明をし終わると共に私も納得した。
そういえば、教皇と戦った時もヤバそうな霊(?)を私が一発で浄化したんだっけ。私は見えないから自覚なかったけど。
モグラも納得したように頷いている。
「確かに『雪の妖精』に浄化の力なぞなかったからな。後付けの物だったのか」
昔の『雪の妖精』を知るモグラが言うんだから、間違いないだろう。
グレイが顎に手を当てて考える素振りを見せる。
「そこまでが初代国王陛下の計画だったわけか。それも年月のせいで失われちまったって事か?」
「いや、『雪の妖精』が意図的に消したっぽい。ウィスタリアと離れたくないから、妨害したんだね」
淡々と答える院長に、グレイは呆れた顔をする。
「……本当に碌なことしないな」
しかし、これでやっと全てのピースが揃った。
これでウィスタリアを救うことが出来る。
院長もクロッカス殿下に近寄って、自分の右手を殿下の額に乗せる。
「さっさと殿下を目覚めさせて、ウィスタリアを浄化して、全部終わりにしよう」
そして院長はちらりと私を―――いや、スノウに目を向けた。優しく穏やかな顔でふっと笑う。
「スノウ、君の力も必要なんだ。殿下を助ける為に、一緒に……」
「失礼します!」
話の途中で部屋に飛び込んできたのはジェードだ。
ジェードは部屋の中にいる私たちと、後ろにそびえる巨大な肉塊に思わずたじろいだ。
特に話を途中で邪魔された院長に睨まれて、恐怖で顔を引きつらせる。
「何? 今、忙しいんだけど」
不機嫌な顔で睨む院長に、ジェードは敬礼しながら震える声で伝えた。
「報告します。ブルーアシード様が言っていた内容がわかりました。『虹の女神を降臨させて、ウィスタリアを天界に返す』方法が判明しました!」
まさかの違う方法での解決方法である。
院長はクロッカス殿下を見つめながら、考える素振りを見せた。
「確かに神の子なんて常軌を逸した存在が現実にいても迷惑だね。帰ってもらえるなら、それが良いか……?」
神の子なんて敬うべき存在なんだけど、昔話を聞く限り、男を侍らせて逆ハーレム作ってた上に、子どもの父親が誰がわからないくらい乱交してたっぽいもんな。
現代の価値観だと迷惑にしかならないから、天界に帰ってもらうのが一番だろう。
しかしそこで一つ、思いついたことがあるので私は院長に話しかけた。
「でも、天界に帰ったウィスタリアが発狂してたままだったら、虹の女神が怒るんじゃないですか?」
私の言葉を聞いて、院長が額を押さえた。
「……確かに」
「ありうるな。最高神の怒りなぞ、どんな神罰が下るか想像もつかんぞ」
モグラもそれに同意する。
院長は迷ったように殿下を見つめていたが、やがて息を吐いた。
「やるならどっちもやらないとダメか……。とりあえず、本当に『虹の女神』の降臨なんて出来るのか、確認してくる。グレイ、殿下の護衛をお願い」
「おう」
「私も行きます」
私も一緒に名乗り出る。
これがDLCの内容通りなのか、葵に確認しよう。
そんな私に院長は目をパチクリさせて頷いた。
「いいけど……それも持っていくの?」
「え?」
院長の視線に沿って、自分の左手を見る。いつの間にか左手には白い杖を握っていた。
『雪の妖精』の杖である。
なんで? さっき床に置いたのに?
混乱する私に、杖から声が響いた。
『それ、装備解除不可なんだよ』
『持ち主と距離が離れたら、勝手に戻るんだ』
『誰かに奪われない限り、ずっと一緒だよ』
『何かあったら助けてあげるからね』
絶対に戻ってくる呪いのアイテムじゃん。




