相談先は多い方がいい
どういうことか説明して欲しかったけど、グレイ隊長には『俺がこれ以上言える事はない』と逃げられてしまった。
こっちも仕事があるし、深追いできずに今に至る。
院長はクロッカス殿下を『優しい』って言ってたし、私から見てもそう見えたけど嘘だったのかな。
院長の件もあるし、このところ色々ありすぎてよくわからなくなってしまった。
殿下のことも攻略対象のフラックスのことも私には関係ない事なんだけど、妙に気になってしまう。
気にはなるが、今回はゲーム知識もないので回避に専念しよう。攻略対象はいるだけで目立つので、避けるのも楽だ。
でも万が一遭遇した時を考えると情報は欲しい。
グレイ隊長はダメ。アンバーに聞いても同じだろう。院長は返信もない。
それ以外に聞けるような親しい人と言えば......。
「それで俺なわけね」
モブくんは困ったような笑顔を見せる。
「でも俺も噂以上のことは知らないな。クロッカス殿下が親友を殺して奥さんを妻にしたって」
「私もその噂は知ってる」
その親友がフラックスの父親ってことか。
この前みたいにヒントになるような事知ってないかな〜という淡い期待は見事に玉砕した。ですよね。
「俺よりも知ってそうな子、いるじゃないか」
「え?」
「この間サクラちゃんに話しかけてきた子、女王陛下付きの執事なんでしょ? あの子なら何か知ってるんじゃないかな」
ジェードのことか。確かにジェードなら『王の影』だし、裏事情は色々知ってそうではある。
ダメ元で聞いてみるか。それで『王の影』として話せない事情があるなら無理には聞かない。困らせたいわけじゃないからね。
そんなにどうしても知りたい! って切迫詰まった状況でもない。あくまでも予防線なだけだ。
「うん、ちょっと聞いてみるよ。ありがとう、相談に乗ってくれて」
「いいよ。いつでも気軽に声をかけて」
どこまでも穏やかな笑顔だ。圧倒的癒し。
「今度その子とデートなんでしょ? 楽しんできてね」
「デートじゃないよ。一緒に出かけるだけなんだけど......それもちょっと困ってて」
「なんで?」
「出かけるのに着て行く服がない」
モブくんはそれを聞いてハッとした顔をした。
「サクラちゃんは孤児院出身だったっけ......そっか.......」
なんか深刻そうな顔をしてるけど、単純に服を買いに行く服がないだけである。
確かに孤児院ではお古か寄付の服だったし、働き始めてからは着まわせる服しか着てない。けど、そもそも前世から化粧にも服にも興味がなかったので、全然困ってなかったんだけど。
「まぁそれは大丈夫かな。ジェードはわかってくれると思うから」
なんせ同じ孤児院出身の幼馴染なので。
「そう? それならいいんだけど......」
モブくんは心配そうだけど、なるようになるよ。多分。