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星の子

「体がないとダメって事……?」


 私はちらりと巨大な肉塊を見上げる。

 水鏡は死体でもOKだったはずだ。

 ただ、あの巨体に押しつぶされた『雪の妖精』の遺体は、絶対にグロいことになっているだろう。


 絶対に見たくない。


 でもリリーさんもクロッカス殿下を救いたいと願っていたし、殿下の呪いを解くために今まで色々調べてきたのだ。

 ここは覚悟を決めてやるしかないか。

 私が唾を飲み込んで、肉塊の人たちと話せる杖を手に取ろうとしたところ、肩にいたモグラが話しかけてきた。


「無駄だ。妖精の身体は魔力で出来ている。我らは星の魔力から生まれた星の子なのだ。妖精が死んだら体は形を失い、星に還る」


 そういう特殊な生まれだから、『雪の妖精』は人間を含む『動物』を下に見ていたのか。

 『雪の妖精』も周りの妖精たちから虐められていたから、他の種族を見下して自分を保っていたんだろうけど。


「じゃあ、もう『雪の妖精』の身体は残ってないんだね」

「ああ」


 私の質問にモグラが頷く。

 私は手がかりを失ったことに対して少し残念に思いつつ、グロい映像を見なくて済むことにホッとする。

 そんな中、グレイが提案する。


「じゃあウィスタリアの過去を見てみるのはどうだ? 元々、その予定で水鏡を借りたんだろ。もう一度、兄上に水鏡を当ててみようぜ」


 そうだ。ウィスタリアは今、クロッカス殿下の内にいる。

 元々ウィスタリアに何があったか知るために、王都に戻って水鏡を殿下に触れさせたのだ。それで見えたのが、何故かエンディミオン主体の話だったけど……。

 『雪の妖精』がいなくなった今、イベントが進んだ事で見られる映像が変わるかもしれない。


「そうですね。やってみましょう」


 私は水鏡を持って、再度眠るクロッカス殿下の手に水鏡を当てる。

 しかし、結果は失敗だった。

 水鏡に流れる映像は、何故かエンディミオンの事だけだったのだ。


 幼い赤子ながら、高速でハイハイして焚火に突っ込もうとするエンディミオン。慌てて赤子を止める双子の幼い姉弟。

 ヨチヨチ歩けるようになった途端、「キラキラ!」と叫びながら池に飛び込むエンディミオン。悲鳴をあげる双子の姉弟。

 少年になってから木のてっぺんまで登り切って満足げなエンディミオン。ドヤ顔で「降りられなくなった!」とか叫んでいる。その木の下で呆れている双子の姉弟。


 とんだヤンチャボーイだ。


 しかし見たいのはこれではない。

 何度殿下の手に当てても流れるのは、エンディミオンのやらかしエピソードである。

 葵が『DLCがバグってる』って言ってたから、水鏡もバグってしまったのかもしれない。


「ダメか……」


 グレイも沈痛な面持ちで水鏡の映像を眺めている。

 伝説みたいに語られる初代国王陛下の、こんな姿見たくなかったのかもしれない。グレイに悪いことをした。


「ここはフラックス様に期待するしかないですね……」


 私はため息をついて水鏡を抱えなおす。

 しかし院長は何故かムッとしたような顔になった。


「いいや、まだ手はある。……ボク、フラックスは信用できないから」


 そう宣言した院長は己の左手を持ち上げて、自分の口元に当てる。

 そして何かをゴクリ、と飲み込むような動作をした。


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