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最終決戦

 院長は自分の胸元を探って、ペンダントを取り出す。

 よく見ると、ペンダントには魔法陣が刻まれていた。転移の魔法陣だ。


 なるほど。これで必要なときに『影』の本部に移動してたのか。


 納得する私に、ジェードが心配そうに声をかけてきた。


「気をつけてね、サクラ」

「うん。なるべく怪我しないで帰るよ」


 なおも心配そうなジェードに手を振って、院長に近づく。


「サクラ、グレイ。ボクに掴まって」


 院長に言われるがまま、私は院長の服の袖を掴んだ。

 グレイは院長の肩に手を置く。

 それを確認すると、院長はペンダントに魔力を込め始めた。

 膨大な量の魔力がペンダントに注がれる。

 それでも院長の顔は涼やかだ。院長にとっては大した魔力量じゃないのだろう。


 確かにこれだけの魔力がいるなら、転移の魔法陣はコスパが悪いな。


 昔、院長の言ってたことに納得していたら、グルンと景色が回転する。

 地に足のつかない浮遊感を味わう事、数秒。

 気が付けば『王の影』の中―――白くてだだっ広い、無機質な部屋に立っていた。

 ここは前にジェードに連れられて、院長と話したところだ。初代国王陛下―――エンディミオンの王墓に続く隠し扉がある部屋でもある。

 その隠し扉は無残にも破られ、奥からは気味の悪い肉の触手がウネウネと蠢いている。触手たちは部屋を横断して、外の扉に出てしまっていた。

 これが『王の影』で暴れている触手か。

 院長とグレイは触手を見て、お互いの目を見て頷き合う。


「グレイ」

「ああ」


 その一言で伝わったのか、グレイは私の近くにクロッカス殿下を横たえた。


「殿下を頼むぜ。嬢ちゃん」

「はい」


 私が頷くのを見て、グレイは剣を抜いた。

 そして駆けだすと、部屋を横断する肉の触手を一刀両断する。

 切られた触手は何事もなかったかのように切れたところからお互いに再生し合い、元通りになってしまった。

 それどころか、切られて危険を感じ取ったのか、外に出ていた触手たちがこの部屋に戻ってくる。

 しかしグレイは冷静だ。


「こっちに引き付けて置けば、外に被害は出ないだろ」

「うん。ありがとう、グレイ」


 院長はグレイに礼を言うと、触手が這い出してきている部屋の奥を睨みつけた。


「ウィスタリアはここだよ。いい加減出てきたら?」


 院長の言葉に、ウゾウゾと蠢いていた触手がピタリと動きを止める。

 代わりに、部屋の奥からドン! と強烈な振動が伝わってきた。その振動は何度も続き、とうとう壁を破壊してきた。

 院長が修復したはずの扉だ。古の魔法にも引けを取らない扉と壁を木っ端みじんにして、巨大な肉塊が姿を現す。

 映像で見るよりグロテスクだ。

 水鏡の映像は内側の物だったが、外から見ると生々しい肉塊から人の腕や足が所々生えている。その肉塊から伸びている触手も、よく見れば人の血管や腸を繋ぎ合わせたような代物だ。見ていて吐き気が込み上げてくる。


 最終決戦に相応しい巨大な敵だな。


 触手たちに引っ張られるように動く肉塊の上で、白い杖を持った『雪の妖精』が座り込んでいた。


「ウィスタリア……ウィスタリア……ウィスタリア……」


 虚ろな目でブツブツと呟いていた『雪の妖精』が、血走った目で私たちを見る。

 院長、グレイ、私と目を向けた後、クロッカス殿下に目を止めた『雪の妖精』は狂気的な笑みを浮かべた。


「ああ、そこにおったのか、ウィスタリア。急にいなくなるから、探しておったぞ」


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