表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

337/372

理解

「まぁ、ウィスタリアも出産直後で弱っていなければ、こうして捕らえる事は出来んかったがな」


 『雪の妖精』は愛おしそうにウィスタリアを眺める。ウィスタリアはそれに答えず、泣き続けるだけだ。


「オレをあの村に転移させたのはお前か。……オレも肉壁の材料にすれば良かっただろ」


 エンディミオンは胡乱げな顔で『雪の妖精』を睨みながら吐き捨てた。

 ウィスタリアの加護のある人間だけで、これだけの結界が築けたのだ。ウィスタリアの血が交じる赤子も材料にすれば、より強固な結界が出来ただろう。

 しかし『雪の妖精』は戸惑ったような表情で、エンディミオンに目を向けた。


「何を言っておる。尊い神の血が流れておる御身に、そんなことをしたりせんよ。人の血が流れているとはいえ、そんなに己を卑下するな」

「その神に、とんでもない事してるお前が言うな」


 ダイヤが半目になって反論するが、『雪の妖精』はまるで応えていない。


「儂はウィスタリアを傷付けたりしとらんじゃろ。ただ、一人占めしていたいだけじゃ。……それに、ウィスタリアの子をあの牧場に送ったのは、ひとえに我が子たちの為じゃ」


 『雪の妖精』はダイヤを見つめる。

 ウィスタリアに向ける狂気的な物とは違う、純粋に愛情に溢れた笑みで。


「双子なら寂しくないだろうとは思うたが、友達は欲しいじゃろ? 儂も友が欲しかったからの。仲良くなってくれて良かったわ」


 身内への親愛の情と、残虐性が同居する男だ。

 それが妖精の性質か、それとも愛されなかった境遇からくるものか定かではない。

 それでもダイヤには、『雪の妖精』に親を感じるには充分だった。……同時に、理解し合えないと痛感するのにも充分だった。

 悲しそうな表情で『雪の妖精』を見つめるダイヤを慰めるように肩を叩いて、エンディミオンは再び『雪の妖精』を睨む。


「二人に逢わせてくれた事には感謝している。だが、それとこれとは話が別だ」

「ほぅ。ではどうする?」


 『雪の妖精』が杖を掲げて臨戦態勢を取る。

 同時に床や壁、天井の肉壁がぐちょぐちょと気味の悪い音を立てて、二人を捕えるかのように取り囲む。


「エンディ……」


 分が悪いと判断したのか、ダイヤが不安そうな顔でエンディミオンを見やる。

 エンディミオンも肉壁をーーー自分の父親を攻撃するのは躊躇いがあるのか、動く事は出来ないでいた。ウィスタリアを解放した後の事はどうするのかも、迷いがあるのだろう。

 三者三様に動かずにいる中、エンディミオンが悔しそうに拳を握り締めた。


「今は……諦める……。だが、どれだけ時間がかかっても、必ず母さんも、彼らも助けてみせる」

「左様か。それなら妖精の身ではあるが、対抗させていただくだけよ。ウィスタリアの御子息」


 『雪の妖精』が杖を下げると、肉壁たちもただの壁に戻っていった。

 エンディミオンは最後に『雪の妖精』を睨みつけて、身を翻した。

 ダイヤも心配そうな顔でエンディミオンについていく。

 最後にダイヤが『雪の妖精』を振り返る。

 『雪の妖精』は旅立つ我が子を見送るように、穏やかな笑顔で手を振っていた。


 映像はそこで途切れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ