親子の再会
でも、なんで水鏡にエンディミオンが映るんだろう。
てっきり、ウィスタリアの闇堕ちの話が見れるの思ったのに。
疑問に思いつつも、私は目の前の映像に集中した。
* * *
「エンディ! こんな所、何もないって! 帰ろう? ここ、なんか気持ち悪いよ……」
ダイヤが先を行くエンディミオンの腕を捕まえる。
気味が悪そうに辺りを見回すダイヤに、エンディミオンは真剣な顔で答えた。
「お前には聞こえないのか? 悲痛な、助けを求める声が」
「声? 聞こえないよ?」
困惑するダイヤを余所に、エンディミオンは前を向いて歩を進める。
「困ってるんだったら、助けてやらないと」
「も~! そうやって何でもかんでも首突っ込んで~! わざわざ危険に飛び込む必要ないでしょ!?」
ダイヤは足を踏ん張ってエンディミオンを止めようとするが、体格差のせいでダイヤがズルズルと引っ張られていく。
「反対するんだったら、お前はアルテミシアの所で待ってろ。オレは一人でも行く」
「こんな厳重な結界の中、エンディが出られなくなったらどうするの!? ボクと姉さんは双子だからお互いどこにいても助けに行けるけど、エンディは違うんだからね! 迷子になって泣くのはエンディなんだから!」
ずっと腕を引っ張られたままギャンギャン喚かれて、ようやくエンディミオンは歩を止めた。
そして真顔でダイヤを見下ろす。
「オレが迷子になったら、手掛かりがなくてもお前たちが捜しに来てくれるだろう。だから心配してない」
「も~! そういうことじゃなくって!!」
地団太を踏んでいたダイヤが、急にはっとした表情をする。
同時にエンディミオンも弾かれたように正面を向いて、二人同時に構える。
警戒する二人の前に、暗闇から白い人影がゆったりとした動作で歩み出た。
「誰じゃ。こんなところまで踏み入ってきた愚か者は」
エンディミオンもダイヤも息を飲む。
それもそのはず、現れた人影はダイヤにそっくりだったからだ。
ダイヤが短髪で、出くわした人物が長髪なこと以外、鏡写しのようだ。
正体不明のそっくりさんも、二人を見て目を丸くした後―――喜色満面の笑みを見せた。
「おお、我が息子ではないか! 息災であったか?」
「はぁ!? お前、ボクたちを捨てて出て行ったボケナスか!? ふざけんな! 何でボクにそっくりなんだよ!」
ダイヤがつかみかからんばかりに自分の父親―――『雪の妖精』に食って掛かる。
一方で『雪の妖精』は息子の罵声をケラケラと朗らかに聞き流していた。
「お前が儂に似とるんじゃが? 順序が逆じゃよ」
「うっさい! いろんな所で人違いされると思ったら……! お前が原因かよ!」
切れ散らかすダイヤの肩を、エンディミオンが叩いて冷静になるように促す。
息切れしているダイヤに変わって、エンディミオンが『雪の妖精』に視線を向けた。
「勝手に入ってすまない。ここはお前が作った結界なんだな」
「左様ですとも、ウィスタリアの御子息。大きくなられましたな」
穏やかに一礼する『雪の妖精』に、エンディミオンが瞠目する。
「オレを……いや、オレの親を知っているのか? ウィスタリア……というのは、お前がついて行った神の子だろ。教えてくれ。一体……何があったんだ?」
エンディミオンの真剣な表情に、『雪の妖精』は頷く。
「では、お話しましょう」
『雪の妖精』が持っていた長くて白い杖を振ると、辺りが一気に明るくなった。




