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火急の用件

 馬車から離れ、アメトリンから乗ってきた馬で再び走りだす。

 王都に向かう途中、気を失っていたスノウが目を覚まして話しかけてきた。


『お父様、大丈夫よね? ちゃんと目を覚ましてくれる?』


 涙声で問うスノウに、私はしっかりと頷いた。


「大丈夫。殿下の為にアンバーもグレイも動いてくれてるから。私も、出来るだけ頑張るわ。スノウの力もきっと必要になるから、一緒に頑張ろうね」

『私、力になるかしら……』


 不安そうなスノウに、私は微笑んだ。


「10年前、殿下がウィスタリアに乗っ取られた時、スノウの呼びかけで戻ってこれたでしょ? だからスノウがいれば、殿下は目を覚ますよ。大丈夫、信じて」

『うん……!」


 スノウは気力を取り戻したように頷いた。

 いくらクロッカス殿下でも幼女……もとい娘を泣かせるなんて絶許である。

 目が覚めたら殴ってやる。

 院長からも殴られるだろうけど、あの人なら甘んじて受けてくれるだろう。

 心の中で決意を固めている内に王都に着く。

 通行証で王都の中に入ると、まだ日が登ったばかりで大通りも人がまばらだ。

 結局、一晩中移動に費やしていた。

 疲労もあるが、今はそれどころではない。

 この時間なら、フラックスはまだ屋敷にいるだろう。

 朝方で申し訳ないが、火急の用件なので馬を引き連れたまま訪問する。

 何度も訪れている屋敷なので、門番さんとも顔見知りだ。

 普通なら門前払いされるところを、私の鬼気迫る表情に驚いた顔で中に入れてくれた。

 客間に通されて暫く待っていると、フラックスが慌てた様子で扉から入ってきた。


「サクラ、何があった? お前はアメトリンに行っていたはずだろう」

「それがーーー」


 私の隣に腰掛けたフラックスに、アメトリンでクロッカス殿下の事を報告されてから今までの経緯を説明する。

 フラックスは真剣な表情で聞き入った後、頷いた。


「わかった。『水鏡』が必要なんだな。ただし、使う時は俺も同行する。……知らないところで父親を亡くすのは、もう沢山だ」


 悲痛な表情から漏れる声は、心からの悲しみに満ちていた。

 義理の親子として、殿下とフラックスの仲はしっかり改善しているようだ。

 今の状況では喜ぶどころじゃないのが悲しいが。


「グレイとアンバーがなんて言うかによりますけど……何を見ても驚かないで下さいよ」

「今更だ。父上とクロッカス殿下の件で身に染みている」


 私の忠告に、フラックスは生真面目に答える。

 それもそうだ。

 元々フラックスの父親の真実を殿下が隠していたから、色々拗れたんだから。

 覚悟が決まっているんだろう。

 周りに当たっていた子どもが、随分大人の表情をするようになった。

 感慨深くフラックスを眺めていると、フラックスは何故か私から目を逸らして、聞きづらそうに話しかけてきた。


「ところで……アメトリンでは何をしていたんだ? あの双子と何かあったが? 殿下が帰ってくるまで、お前の話を聞かせて欲しい」


 聞かせて欲しいって言ってる割に、聞きたくなさそうな顔なんだが、なんなんだ?


 フラックスもウィスタリアの貴族だから、アメトリンの聖地が気になるのだろうか?


 仕事が忙しいにしても、偶には遊びに行って良いと思うんだけど。


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