こだわりの一品
「あと、院長は『雪の妖精』の息子じゃないですよ」
「魂が同じだから別に良いだろう。同じようなものだ」
モグラはツーンと横を向いて、私の意見を聞き入れない。
「毎回それで院長と言い争いになってるのに、懲りないなぁ……」
『雪の妖精』本人も、院長が息子の生まれ変わりだって言ってたな。
院長含め、妖精は魂が見える眼を持っているんだろう。
「今回も喧嘩して、院長にここに置いて行かれたの?」
「違うわ。この魔物は神代に生きていた伝説の生物だぞ。万が一、再び動き出したら厄介だからと我が見張っているのだ」
「そう、なんだ……?」
えっへんと胸を張るモグラ。
確かにそんな生物が生きていたら脅威だ。警戒はしておくに越したことはない。
でもモグラっぽくないというか、妖精が他の人間を気に掛けるのか?
疑問を持って眺めていたら、オホンと咳払いしてモグラが私を見上げた。
「それにあの呪われた男が飛び降りた崖の下は、良くない思念が渦巻いておった。おおかた、それに影響されてこの下に向かったのだろう。だが我には関係ないし、我が赴く義理もない。それ故、ここで待っていたのだ」
そんなにヤバいのに院長は迷わず崖下に飛び降りてったのか。
クロッカス殿下は私と違って、良くないものに誘われてしまったらしい。
10年前、クロッカス殿下が堕ちた神―――ウィスタリアに乗っ取られた時と同じように。
『お姉さま……』
不安そうなスノウと共に、急激に嫌な予感が込み上げてくる。
院長だったらさっさとクロッカス殿下を回収して、当に崖の下から戻ってきてもおかしくない。けど、未だに戻ってないってことは、何か問題が発生しているのかもしれない。
「じゃあ、殿下はまだ崖の下にいるんだね?」
「ああ。あの二人は崖から少し離れた場所で、いまだに動きがないな。良くない気配はなくなったようだが……」
モグラは崖から少し離れた林の先を迷いなく指さす。
「そんなのもわかるんだ」
驚く私にモグラは当然のように頷いた。
「魔力や魂は人それぞれ違うからな。それを辿ればすぐに場所がわかる」
便利だな。院長もこれを使って私の居場所を探知してたんだろうか。
いや、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
嫌な予感に突き動かされて、私はまだ兵たちと話しているグレイに向かって叫ぶ。
「グレイ隊長! 殿下はまだ崖の下で動けなくなってるみたいなので、迎えに行ってきます!」
「は!?」
驚くグレイや周りに止められる前に、私は崖に走り出す。
モグラは私に振り落とされないように肩に捕まったまま声をかけてくる。
「下まで降りられる階段でも作ってやろうか?」
「大丈夫!」
モグラに答えながら、背中のリュックに詰めてきたある物を取り出しながら、崖から飛び降りる。
こんな時の為に、持ってきておいたんだ。
あの時使ったスケボーをな!
スケボーに飛び乗って、崖を睨む。あの時よりも長く、険しい坂道……。
でも大丈夫!
聖地にいる間、滑り心地・乗りやすさ・耐久性に配慮して改良を重ねたこだわりの一品だ。
私はお前を信じる!
「いっけーーー!」
雄叫びと共に崖を滑り降りる。
やっぱり安定感が違う。これはイケるぞ。
「うむ、階段より速いな!」
『楽し~!』
モグラとスノウを大満足させて、スケボーは難なく崖下に辿り着いた。




