ジャガイモ畑
アメトリンから王都に向かう道を真っ直ぐにひた走っていると、馬車や兵達が立ち往生しているのを発見した。
馬車には王家の紋章も掲げてある。
間違いない。あそこがヤマタノオロチに襲われた現場だろう。
アメトリンを出発したのが昼過ぎだったからか、現地に着いた時には日が暮れて夜になっていた。
グレイの先導で私達が兵達に近づくと、兵達はグレイに向けてビシッと敬礼する。
グレイは馬から降りて、兵達に状況を聞きに行った。
「状況は?」
「はい。未だ殿下はお戻りになっていません」
グレイはそのまま兵達と話し込んでいる。
私も馬から降りて、辺りを見回す。
そこでようやく気がついた。
煌々と焚かれた火の下で、山のように巨大な八本首の蛇が、全ての頭を潰された姿で横たわっている。
暗いせいもあるけど、デカすぎて盛り土が小山だと思った。
これをクロッカス殿下と院長で瞬殺したのか。ヤバすぎ。
ドン引きしていたら、巨大な蛇の体の上から声がかかった。
「サクラではないか。お前も来たのか」
見上げると、蛇の巨体に隠れていた土の大妖精ことモグラが、ひょっこりと顔を出した。
私はさっと周りに目を配って、近くに人がいないか確認してから再度モグラに目を向けた。
「何やってるの? 土の大妖精の聖域に帰るって言ってなかった?」
私が周りに気づかれないように小声で問いかけると、モグラは蛇の巨体からピョンとジャンプして私の肩に降り立った。
「うむ。要件が済んだので、こちらに戻ってきたのだ」
モグラの言う要件、というのはジャガイモの事である。
このモグラ、葵が前に振る舞ってくれた肉じゃがーーーというよりジャガイモがいたくお気に召したらしく、自分でも育てたいとか言い出しのだ。
土の大妖精の機嫌を損ねるのもアレなので、私が葵に頼んで種芋を分けてもらった。
モグラは喜んでジャガイモを携え、いそいそと自分の聖域に帰って行った。
「妖精の皆にジャガイモの世話を頼んできた。収穫が楽しみだ」
モグラはウキウキとした声音で何度も頷く。
どうしよう。巨大な水晶でキラキラしてた土の大妖精の聖域が、ジャガイモ畑になってたら。
まぁいいか。それでイメージがぶち壊れるのはサルファー帝国だし。
しかし、私の疑問はまだ解消されていない。
「それで、なんでここにいるの? 王都で待ってれば良かったのに」
「お前が我を置いて、旅行に出かけたからではないか。お前といれば、また面白い事が起こると思ってな」
「人をエンタメとして消費しないでよ」
ジト目で遺憾の意を表明したが、モグラは気にかけた様子がない。
むしろ私が悪いかのように、私を睨みつけてきた。
「我が我慢して小生意気な雪の妖精の倅と一緒に来てやったのに。不敬だぞ? 我、土の大妖精ぞ?」
「今度、葵のお店のケーキご馳走するから許してよ。土の大妖精サマ」
「うむ、良いだろう」
モグラは威厳たっぷりに頷いた。
チョロいな。




