表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

320/372

ソリブーム

 それから一週間。

 フォーサイシアやネイビーと協力して、アメトリンを探索したり、教会の資料を閲覧したりしたが、結局目ぼしい物は見当たらず、イベントも起こらず、時間だけが過ぎていった。

 聖地にも、もう一度足を踏み入れたけど、何も発見する事が出来ずにいた。


 これはクロッカス殿下と院長がアメトリンに来た時に、改めて捜索し直す方がいいのかもしれないなぁ。


 数日も待てば、殿下が『療養』のためにアメトリンを訪れる予定だ。一緒に院長も来てくれるだろう。

 それにスノウも初めて王都の外に出たのだ。調べものばかりではつまらないだろう。

 そこで今日は崖からダイブした時に約束したソリ遊びに興じることにした。

 朝から木を加工して1からソリを作り、緩やかな傾斜のある草原で滑ってみる。

 段ボールと違ってちゃんと滑るか不安だったけど、この世界には魔法がある。魔法を使えば、ソリの加工はもちろん、加速も減速も思いのままである。

 グレイに見守りを頼んで、スノウに遊んでもらっていたら、興味津々でネイビーが話しかけてきた。


「面白そう! ネイビーもやる!」

「えー? これは私のソリなの! お姉さまが私に作ってくれたんだから!」

「ケチー!」


 見た目は大人、頭脳は子ども同士の言い争いに割って入ってくれたのはグレイである。


「まぁまぁ。ネイビーも作ってみればいいんじゃねぇか? ほら、フォーサイシアも遊びたそうにしてるし、弟の分も作ってやれよ」

「えっ、いや……私は……」


 ネイビーと一緒にやってきたフォーサイシアがもごもごと口の中で言い訳する。

 しかし目線や顔色で遊んでみたいのが明白である。

 この世界って貴族的な美術や食事系は発達してるけど、スポーツ系の娯楽って少ないみたいだから興味があるんだろう。

 剣術や弓道はガッチガチの戦闘用か狩猟用でしかないもんな。

 ネイビーはグレイの言葉に喜んで頷いた。


「作る! サクラ、教えて!」

「いいよ。ごめんね、スノウ。ちょっと待ってて」


 スノウと身体を共有しているので、いったん交代してもらう。

 木はアメトリン内で古くなったり腐敗が進んでいて危ない物が伐採して置いてあったので、許可をもらって加工させてもらっていた。

 今度はネイビーとフォーサイシア用にソリの原型を見せつつ、魔法で作ってもらう。

 普通は気の加工って大変だけど、魔法を使うと割合好きな形に整えることが出来る。便利だ。

 ネイビーは魔法の使い方はお手の物で、あっという間に二人分のソリを見よう見まねで作って見せた。


「出来た!」

「凄いね、ネイビー。じゃあ一緒に滑ってみよう」

「うん!」


 無邪気に頷いたネイビーがゆっくりとソリを滑らせて、子どもらしい笑顔を見せる。

 それを見て、今度はスノウも滑り始めて、ネイビーが競争し始めた。フォーサイシアも二人に誘われて滑り始め、いつもとは違い、子どもっぽい笑顔を見せていた。


 やっぱり皆、幼女だったのかもしれない。皆揃って、皆可愛い。


 スノウの中で満足していたら、やがて通りかかった子ども達が興味を示して一緒に遊びたいと言ってきた。

 流石にソリの原料となる木が足りないので、子どもにソリの貸し借りをするうちに、大人も興味を持ったのか、いろんな人が遊び始めていた。

 最終的には教会のイケオジ神父まで遊びに来ていた。何やってんだよ。

 結局、夕暮れまでいろんな人とソリで遊びつくしてしまった。

 アメトリンに来るのは上流階級の人たちなんだけど、余程娯楽に飢えてたんだろうな。


 今度は別のスポーツも提供しよう。王都でも流行るかもしれない。


 心地いい疲労感と共に、ソリを持って宿に戻ると、馬に乗った黒い軍服の男がこちらに駆けてくるのが見えた。


「隊長!」

「あ? なんだ。どうした?」


 グレイが前に出ると、軍服の男は馬から飛び降りる勢いで地面に膝をつく。

 この人、お城の訓練場で見たことあるな。グレイの隊の人か。

 記憶を辿っていたら、軍服の男は悲痛な顔でグレイを見上げた。


「報告します。クロッカス殿下がアメトリンに向かう途中、怪物に襲われ……崖から落ちました……!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ