帰還
教会では休まらないだろうという事で、フォーサイシアやグレイと一緒に教会から本来の宿泊先に移動した。
ようやく部屋で一息つき、遅めの朝食を全員で食べながら、昨日の出来事を説明する。
話を聞いたフォーサイシアは呆れたような、関心したような顔で頷いた。
「聖地の内部を知れるのは王族でも一握りです。しかもそこが『雪の妖精』に作られた場所だとわかって、初代国王陛下の記録も見れるなんて。やはり、サクラは特別なのですね」
「それにしたって、もう少し穏便に嬢ちゃんを導いて欲しいものだな」
グレイも同意するように頷きながら愚痴る。
私が特別なんじゃなくて、攻略対象がいたからたまたまイベントが発生しただけなんだけどな……。
そう伝えたいが、ゲーム知識前提のメタ発言をしても説明が難しい。私に出来るのは曖昧に唸る事だけだ。
フォーサイシアは私の変顔に気づかず、嬉々とした様子で語り出した。
「きっと今回知れた事を含めれば、今までの資料からも新たな発見があるかもしれません」
「そうだけどよ。そういうのは明日にしようぜ」
グレイが目で指し示した先は、ネイビーだ。先程から口数が少ないと思ったら、椅子に座ったままウトウトと船を漕いでいた。
昨日寝たのが夜遅かったのと、慣れない場所で警戒しながら寝たから疲れているのだろう。
フォーサイシアはネイビーと私を見比べて、自分を恥じたような顔で頷いた。
「……そうですね。今日は休みましょう。私も兄さんが起きたら聞きたい事がありますし」
そう言って、フォーサイシアは寝ぼけ眼のネイビーを引っ張って、自分たちの部屋に戻って行った。
「じゃあ俺も部屋に戻るから、嬢ちゃんもゆっくり……」
「待ってください」
双子に続いてグレイが立ちあがろうとするのを、私は引き止めた。
「フォーがいる時に話してない事があるんです」
「ああ……?」
困惑した顔でグレイが椅子に座り直す。
確かにフォーサイシアやネイビーにも、初代国王陛下の話や、雪の妖精の子どもたちの話は包み隠さず全て話した。
ただ、初代国王陛下ーーーエンディミオンやアルテミシア、ダイヤの見た目に関しては、あの二人が混乱すると思って、あえて語らなかったのだ。
「それぞれの見た目が兄上やアンバーにソックリだった……?」
改めて聞いたグレイも困惑したような顔になる。
「血縁だから偶然って可能性もありますけど……。でもスノウが見た棺の近くの石像にもソックリなんです。グレイも見てるでしょう? なにか、院長から聞いてませんか?」
エンディミオンが眠っていた棺。その近くには、リリーさんと院長にソックリな石像が合った。
あれはさっき見た、アルテミシアとダイヤの姿だったんだろう。
何故あの二人を型取った像があの場所にあったのか。
本来なら院長に聞きたい所だが、今はいないので仕方がない。
グレイは目を瞑って暫く考えた後、急に目を見開いた。
「そういえば、アンバーから聞いた事がある。棺の近くにある石像は、それぞれ初代国王陛下の王妃と当時の宮廷魔術師だってな。『雪の妖精』が初代国王陛下に仕えてたってのも、当時の壁画や石像に残ってたからだったらしいが……」
「ダイヤが院長と同じで、雪の妖精と姿が似てるから勘違いされてただけですよ。きっと」
エンディミオンとアルテミシアが結ばれて、ダイヤか宮廷魔術師になった。
ただ、ダイヤが『雪の妖精』とソックリだったから、年月が経つ内に混同されてしまったのだろう。
だから初代国王陛下にも『雪の妖精』が仕えていたという言い伝えが残されていたのだ。
それはわかったが、だからと言ってウィスタリアが闇堕ちした理由や、エンディミオンがどういった経緯でウィスタリアの事を知ったのかがわからない。
そこにクロッカス殿下の呪いを解く手がかりがありそうなんだけどな……。
再び悶々と悩む私の思考を止めるように、グレイが肩を叩いてきた。
「今は休め。疲れてる時に余計な事、考えんじゃねーよ」
いいな、とばかりに再び肩を叩いて、グレイは部屋から出て行った。
確かに悩んでても仕方ないな。
自分に出来る事をするしかないんだ。
とりあえず、今は休もう。




