検問所
赤い蝶の導きに従いしばらく歩いていると、段々と道が草木に覆われ、そのうち完全に道を見失ってしまった。
赤い蝶はそれでもゆっくりと進んでいく。
道なき道を進んでいくと、急に草木がなくなった。
視界が開けた先には、検問所のような建物がある。検問所の周囲には、人が立ち入れないように高い柵が続いていた。
ここが聖地との境界線なんだろう。
赤い蝶は用が済んだと言わんばかりに、ひらひらと来た道を戻って行く。
「ありがとう」
私が声をかけると、蝶はそれに答えるようにクルリと器用に一回転して茂みの中に消えて行った。
「出れる! おなかすいた~」
ネイビーがお腹を押さえて、ほっとしたように声をあげた。
夕飯も食べずに崖からダイブしちゃったからね。
本当に申し訳ない。
「ごめんね、ネイビー。スノウもお腹空いたよね。早く皆の所に戻ろう」
謝りながら、ネイビーの手を引いて検問所に近づく。
暇そうにしている検問所の兵隊に声をかけると、兵隊は面倒臭そうに顔を顰めた。
「君たちが昨日、迷い込んだって言う子たち? 困るよ~、俺たちの責任問題になるんだからさ。勝手に入らないでよね」
「すみません……」
「自力で帰ってきたからいいけど、今日だって君たちを探しに仲間が朝から集まらないと行けなかったんだから。大勢の人に迷惑かけてる自覚ある?」
「はい。本当に、ご足労お掛けしまして……」
これは私が悪いのでひたすら謝る。
ネイビーが隣で納得いかずにムッとした顔をしてるけど、私が反論しないので黙っていてくれていた。
誰だって他人の迷惑のせいで普段の仕事以上の事をしたくないだろう。遭難の捜索隊だってタダじゃないんだ。
兵隊のお叱りにひたすら謝り倒していたら、見知った声が耳に響いた。
「そこらへんにしといてくれよ。俺が後でちゃんと叱っておくから」
兵隊の後ろから現れたのはグレイだ。
グレイは私たちの顔を見て、ほっとしたように表情を緩める。
うっ、心配かけて申し訳ない。
再度居た堪れなくなる私と反対に、周囲の兵隊達は色めきだつ。
「グレイさんだ……」
「帝国との戦争の英雄だぞ」
「初めて見た……」
帝国との戦争って、クロッカス殿下と院長のゾンビ戦法しか話を聞かなかったけど、グレイも有名になるくらい活躍してたんだろうな。
グレイは周囲の目線を歯牙にもかけず、至って真面目な表情で私に小言を言っていた兵隊に声をかけた。
「無茶言って悪かったな。礼を言う。この子達を連れ帰るけど、いいか?」
「は、はい!」
兵隊はビシっと敬礼をして、私たちを引き渡した。
有名人で実力もあるのに、気遣いも出来るのがグレイの凄いところだ。




