よくあるイベント
「まだ、みえる?」
過去の出来事に見入っていたら、ネイビーが気遣わしげに尋ねてきた。
私は何も見えないネイビーをほったらかしにした事に気づいて、慌ててネイビーを見上げる。
「ううん、終わりみたい。多分だけど、初代国王陛下がいた時代の出来事を垣間見れたと思う」
「ほんと!?」
ネイビーは目を見開いて驚いた。
初代国王陛下がいた時代は、神話や御伽噺と地続きの時代だ。その頃の映像を見れたとなれば、驚くのも無理はない。
というより、普通だったら信じて貰えないだろう。頭の病気を疑われて、病院に連れて行かれるレベルだ。
本当にネイビーと一緒で良かった。
「見れたのはきっと、ネイビーのおかげだよ。追いかけて来てくれて、ありがとう」
ネイビーはキョトンとした顔で首を傾げた。
「ネイビー、なにも、してない」
「そんな事ないよ。ネイビーが私を助けようとしてくれたから、初代国王陛下が見せてくれたんだと思う」
わざわざ初代国王陛下が、この聖域には手を加えないように、と厳命していたのだ。何か条件が整った時に過去の映像を見せるよう、仕掛けをしていてもおかしくはない。
例えばウィスタリアの封印が危うい時に、王族や雪の妖精の子孫がこの場所を訪れたら映像が見れるようになっていたのかも知れない。
ゲーム的に身も蓋なく言えば、攻略対象がいるから起こったイベントだろう。
ついでに言えば崖から落ちた相手を、攻略対象が危険をかえりみず助けるという事は、それなりに好感度が高いと判断されてイベントが発動した可能性もある。
なんにせよ、幸運だった。
「ネイビー、役に立って、良かった」
ネイビーも嬉しそうに笑っている。
しかし、良い事ばかりでもない。
ウィスタリアが闇堕ちした原因がわかるどころか、ますます謎が増えているけども。きっとこれも必要な情報なんだろう。
王都に帰ったら、葵と共有しよう。
そう結論付けて、私はずっと握っているネイビーの手を引いた。
「そろそろ移動しよう。フォーやグレイは迎えに来れそう?」
フォーサイシアに連絡の取れるネイビーに尋ねると、ネイビーは困ったように俯いた。
「えっと……てつづき? たいへんで……。ここ、入れる、明日」
「ああ……。本来なら一般人は入れない聖域だもんね……」
一応、アメトリンを調べるためにクロッカス殿下から許可証は貰ってきたけど、流石に急過ぎた。
崖から落ちるってなんだ。
ここの管理者も対応に困るだろう。
それでも明日には入れるというのは、クロッカス殿下のおかげだ。いつの世も、権力があればゴリ押しが出来る。
こちらもすでに日が暮れて、無理に動いて怪我をするのも避けたい。
「じゃあここに泊まりかなぁ……」
おあつらえ向きに、埃もなく敷かれたベッドを眺める。
なるほど。乙女ゲーム的にはそういうイベントなのね。
フォーサイシアやフラックスと一緒じゃなくて良かった。気まずいどころの話じゃない。
ジェードはまだ弟だから良いけど、ジェードだって年頃だから姉と一緒なんて気恥ずかしくて嫌だろう。
「サクラ、お泊まり? 一緒?」
一方のネイビーはワクワクとした表情で私を見つめる。
お泊まりが楽しい幼児のような顔だ。
いや、幼女だった。
無邪気な表情に思わず笑みが溢れる。
「グレイもフォーもいないし、ちょっと夜更かしして色々話そっか」
「うん!」
『あ、ズルい! 私も、私もー!』
慌てて参加してきたスノウと一緒に、ネイビーとベッドに転がり込む。
本当にお泊まり会みたいだ。
私まで楽しくなってきた。
そのまま三人で寝転びながらたわいのない話をして、気がついたら眠りについていた。




