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気味の悪い場所

「ネイビー、大丈夫だよ。追いかけて来てくれたんだね」


 心配そうに駆け寄ってきたネイビーを安心させるように、笑って答える。

 ネイビーは怒ったような顔で私の腕を捕まえた。そのままネイビーは、まるで幼児が道路に飛び出さないように、私の手をぎゅっと握った。


「サクラ、急に走った。なぜ?」

「えっと……小さい子が柵に走って行ったから……」


 その子は柵にぶつかる前に消えたけど。

 ネイビーは怪訝そうな顔で首を傾げた。


「だれも、いない。グレイも、そう」


 二人にはあの少年が見えてなかったのか。

 そもそも遠距離から近づくグリフォンですら気づくグレイとネイビーが、あの少年に気づかなかった時点でおかしいと思うべきだった。


『私は見えてたわよ。お姉さまは嘘なんて言ってないわ』


 一人で反省していたら、スノウからフォローが入った。

 それを聞いたネイビーが、少し慌てたように頷く。


「心配、だけ。サクラ、信じる!」


 幼女の方が私よりしっかりしてるんだが。


「……ありがとう、ネイビー。信じてくれて」


 お礼を言いつつ、子どもの成長に追い抜かれそうな事に精神的ダメージを受けてしまった。

 現実逃避しそうな私とは反対に、ネイビーは目の前の現実ーーー崖の上を指差す。


「グレイ、フォー、心配してる」


 なんの理由もなく、急に人が柵に飛びつく奇行を見せた挙句に、そのまま落ちて行ったら心配もするだろうな。

 改めて崖を見上げる。

 私一人なら登れない事もないが、ネイビーは無理だろう。私一人登るにしても、時間がかかりそうだ。


「遠回りで帰れる道がないか探そう。フォーにもそう伝えてくれる?」

「うん!」


 ネイビーが笑顔で頷く。

 双子が脳内会話出来て助かった。向こうも合流出来るように動いてくれるだろう。

 もうすぐ日が暮れて、辺りも暗くなってしまう。

 周囲に何かないか、見回した所でふと気づいた。


「全然寒くないね……」

「うん」


 ネイビーも首を傾げる。

 崖の上は肌寒い風が吹いていたのに、ここは全くの無風だ。

 しかも気温が暑くも寒くもない。このまま寝転んでも風邪を引かないような、ちょうど良い気温。まるで室内にいるようだ。

 人の住みやすいように環境がコントロールされているような……気味の悪さと、妙な閉塞感を感じる。

 思わず顔を顰めていると、またも視界に赤い光が横切った。

 はっとしてそちらに顔を向けると、先程の少年が赤い蝶を伴い歩いているのが見えた。

 崖に背を向ければ、反対側は花畑だ。色とりどりの花が、季節を問わず咲いている。

 その中を、妖精のような容姿の少年がスキップでもするように楽しげに歩いている。そして赤い蝶は、その少年の周りを付かず離れず、ヒラヒラと舞うように飛んでいた。

 幻想的な光景だが、状況が状況だけに返って不気味に見える。


「……いる?」


 ネイビーが改めて手を握りながら尋ねてきた。


「うん、ネイビーは見える?」

「見えない」


 ネイビーは目を凝らすように花畑を見つめているが、少年のことは見えないようだ。

 多分、これはイベントなんだろう。

 情報を得る為には、あの子について行った方が良い。

 イベント戦とか乙女ゲーム的なハプニングとかあるしれないが、きっと攻略対象が側にいる今しか起こらない現象だろう。

 私は覚悟を決めてネイビーを見上げた。


「ネイビー、一緒に来てくれる?」

「うん。サクラ、守る!」


 ネイビーはキリリとした顔で真剣に頷いた。

 さらには、ネイビーの戦闘モードである狼のような黒い魔力に一緒に包まれる。

 先程と違い、今度は心がポカポカするような……ネイビーの優しさに包まれているような心持ちだ。

 おかげで薄気味悪さが多少薄れた。


「ありがとう、ネイビー」

「うん!」


 しかしここが気味の悪い場所には違いない。

 私も危ない橋はなるべく渡りたくないので、少年と距離を取って警戒しつつ進む。

 やがて花畑の終わりが視界の端に見えた頃、少年が走り出した。


「おねーちゃーん!」


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