スケボー
先に行ったグレイとネイビーは、この少年に気づいていない。
少年は笑顔で蝶を追いかけて真っ直ぐ進み―――明らかに丸太で出来た柵に激突する勢いで近づいていく。
幼児によくある行動! 一つに夢中になってるせいで周りが見えてない!
「危なーい!」
見ず知らずの少年だが、流石に顔面から柵にぶつかるのは可哀想なので、駆け寄って止める。
少年は私の声など気にせずに、柵に近づいて行き―――顔面から激突する前に消えた。
「え?」
結果として、柵に抱き着く不審人物が誕生しただけだった。少年は影も形も見当たらない。
それはまだ良い。恥ずかしいけど。
問題は勢いよく柵に飛びついたせいで、柵がぶっ壊れた事である。
ついでに言えば、柵の向こうは崖になっていた。
そうなるともう止まらない。
勢いと重力に従って、私は柵と一緒に真っ逆さまに崖から落ちた。
―――このまま顔面から落ちたら怪我じゃ済まない。
とっさに手に持っていた板状の柵を強化。
空中で体制を立て直して、柵の上に足を付ける。
そのまま柵をスケボーみたいにして、崖を滑り降りる体勢を整えた。
崖くらいなんだ。院長の修行で何度も突き落とされたわ。
頭に流れるのは見た目は子ども、頭脳は大人な名探偵のBGM。
それくらい余裕で崖に生えている木や岩を躱しながら、崖の下まで滑り切った。
滑り降りた勢いを殺すために、スライドしながら板を止める。
バイクがカッコよく止まるアニメみたいな停止の仕方になったが、誰も見てないから良し。
『お姉さま、カッコいい~! 私もやりたい!』
違った。スノウが見てた。
でも危ないから、小さい子は草原でソリを滑るくらいにしようね。
スノウに言い含めていたら、崖の上から真っ黒な物体が続けて降りてきた。
「サクラ! ダイジョブ!?」
焦った顔のネイビーが、闇の魔法で自分を強化した狼フォームで降りてきてくれていた。
……ひょっとして、攻略対象がカッコよく助けてくれるイベントだったんだろうか。
自力でなんとかしちゃった。




