初恋キラー
『お姉さま、そういう事じゃないのよ。好きな人を独り占め出来たら、嬉しいでしょう?』
スノウの声が頭に響く。
こういう年頃の女の子は、なんでも恋愛に結びつけたがる。ここは乙女ゲームの世界だから、余計に思考がそちらに引っ張られるのかも知れない。
それを微笑ましく思いながらも、スノウが勘違いしたままだとフォーサイシアにも悪いので、訂正しようと口を開く。
「そうだね。私もスノウをずっと独り占めしてるから、いつでも幸せだよ。一番近くにいて、心まで守れるんだから。それと同じでしょう?」
そう、恋愛感情じゃなく、家族や友達にも当てはまるものだ。
スノウは何故か黙り込んでしまった。
ひょっとして、5歳には難しい話をしてしまったのだろうか。
少し心配になった矢先、ようやくスノウの言葉が返ってきた。
『私も……幸せ……。お姉さまとずっと一緒にいたい……』
何故か顔を真っ赤にして照れてる。
可愛い。
でも照れる要素あっただろうか。多分、クロッカス殿下や院長の方が、スノウにゲロ甘なセリフ言ってそうなんだけど。
よくわからないが、とりあえず抱きついてきたスノウを心の中でヨシヨシしておく。
しかしそんな私は傍目からしたらボーっとしているだけに見えたのか、自分の荷物をネイビーに持たれてしまった。
「あ、ネイビー? 私が持ってい……」
「ネイビー、持つ!」
私に被せるように言い切ったネイビーは、珍しく怒ったような顔をしている。
「ネイビー、強い。サクラ、守る!」
ネイビーは堂々と宣言するけど、いきなりどうした。
……私という友達をスノウに取られて、嫉妬してる感じかな。つまり、幼女の情緒が育ってきているという事か。
ネイビーはほとんど人との関わりがなかったから、感情が育つのは良い傾向だ。
幼女の成長に感動しつつ、私は微笑んだ。
「ありがとう、ネイビー。でも、他人を守るより、自分を守るのが先だからね。ネイビーに何かあったら、私もフォーも悲しいよ」
「うぅ……うん。ネイビー、もっと強くなる」
ネイビーは大人しく頷く。
その目に宿る純粋な決意に気をされるくらいだ。
誰がを守りたい気持ちは将来、きっと何かの力なるだろう。
ネイビーがどんな大人になるのか、楽しみだ。
そんなおっさんみたいな事を考えていたら、少し離れた場所で見守っていたグレイが声をかけてきた。
「そろそろ行くぞ。日が暮れちまう」
「うん!」
ネイビーが元気良く返事をして、グレイの元へと向かう。
私もそれに続こうとして、ふと、足を止めた。
視界の端に、鮮やかな赤が横切ったからだ。
なんの気なしに、そちらへ視線を向ければ、鮮やかな赤はヒラヒラと舞う蝶だった。
夕焼けを浴びて、羽が輝いているようだ。見た事もない美しさに、思わず見惚れる。
「ちょうちょ!」
舌足らずな子どもの声が、私を現実に引き戻した。
近所の子どもだろうか。声の方へ視線を向ける。
そこにいたのは三歳くらいの男の子だ。
白髪金目で、院長に似ている事を除けば、無邪気な表情で蝶を追いかけているただの子どもである。
ただの子どもなわけないな。
イベントか? イベントなのか?




