出発
結局のところ、私はフォーサイシアとネイビーと共に王家の直轄地に向かう事になった。
保護者たちとの問答の後、現地に向かうまで暫く日にちがあった為、その間もジェードやフラックスと一緒にウィスタリアについて調べていたが、成果は上がらなかった。
私が王都から離れている間も、二人は引き続き情報を調べていてくれると言っていたので、その間に何か見つかる事を祈るしかない。
「でもジェードもフラックス様も、私が情報収集の為に遠出するって言ったら反対してきたんですよ。最終的には自分も行くとか言い出して……。こういうのって、分担した方が効率が良いと思いません?」
動きやすいパンツスタイルで王都の大通りを歩きながら、私はグレイを見上げた。
グレイはいつもの軍服ではなく、一介の冒険者のような格好に、いつもの剣を身につけている。グレイの荷物が多いのは、ついでだからと私の旅行鞄まで持ってくれているからである。
今回は私用で出かけるからこの格好なんだろうけど、実に似合っている。凄腕の冒険者として名を馳せていそうな風貌だ。
グレイは乾いた笑いを浮かべながら、空を見上げた。
「あー……。嬢ちゃんがフォーサイシアやネイビーと一緒に行くって言ってたから、反対してたんだろ」
「そうみたいです。でも院長や殿下が保護者として心配だら、旅行に反対するのはわかりますけど、ジェードやフラックス様に反対されるのは納得いきません」
憤慨する私を、グレイは苦笑いで受け流す。
ジェードもフラックスも、仕事がなかったら本当に着いてきそうな勢いだった。
ただし二人とも、クロッカス殿下の不調……という名の強制休暇の影響で仕事が増え、私に着いてくるどころではなくなっている。
アイリスと秘密で仲良くなっている葵曰く、アイリスもその周りも、忙しくてヒーヒー言っているらしい。
クロッカス殿下がちょっと休んだだけでこれか。ゲームで殿下がいなくなった後、国政が正常に行われていたのか不安しかない。
一方のクロッカス殿下は、勝手に体調不良と公表されて最初は不満そうだったが、開き直って自分に何かあった時の予行練習として様子見の姿勢である。問題なさそうなら院長と一緒に王都を離れると言っていたので、現地で後から合流出来るだろう。
王都には優秀な主人公と攻略対象が揃っているのだ。これからの為に是非頑張ってもらいたい。
グレイと話しながら歩いている間に、子どもたちを預かっている教会にたどり着いた。
教会の横には、すでに馬車が到着している。
フォーサイシアとネイビーは、馬車の近くで御者と話しをしているところだった。
「ああ、グレイ隊長、サクラ。時間通りですね」
フォーサイシアがこちらに気づいて振り返る。
私たちも素直に二人に近づいた。
「ごめん、待たせた?」
「いいえ、待ってませんよ」
「楽しい! 楽しい!」
心なしか嬉しそうなフォーサイシアと、すでにテンションが高いネイビーだ。私たちとは違い、二人ともいつもの司祭の服を見に纏っている。
今回はフォーサイシアの仕事に、私たちが形だけ着いていく事になる。
「悪いな、俺まで一緒で」
グレイの言葉に、フォーサイシアは笑って首を振った。
「いいえ。グレイ隊長にはお世話になりましたし、サクラへの恩返しが出来るなら、これくらいどうという事はありません。私は何度か向こうに行った事があるので、多少は案内出来ると思います」
「ありがとう、フォー。私は王都以外の町に行った事がないから、助かるよ」
町以外の山とか川とか崖とか洞窟なら行った事があるんだけど。院長との修行で。いつも野宿か、すぐ王都に帰ってたから、他の町がどうなっているのか興味はある。
そんな私の手を、ネイビーが笑顔で握った。
「一緒、一緒!」
「ええ、兄さんも王都の外は初めてですから、とても楽しみにしているんですよ」
ネイビーと全く同じ顔で、フォーサイシアが笑う。
なんか、まとめて幼女に見えてきたな……。
守らねば、この命。
(また嬢ちゃんが変な事を考えてるな……)