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同行人

「ダメだよ!!!」


 私の決意とは反対に、院長に思いっきり反対された。

 仕事終わりにアンバーに有給の申請を出しに行ったら、引きつった笑顔で首根っこを掴まれ、そのままクロッカス殿下の執務室まで連行されてきてしまった。

 クロッカス殿下とグレイが疑問符を浮かべる中、いつものようにソファに座らされ、紅茶を出されたまでは良い。再度眼鏡を外した院長に有給の理由を尋ねられたので、『フォーサイシアとネイビーと一緒に旅行に行きます』と答えたところ、上記の反応である。

 余りにも取り付く島のない返答に、私は手に持っていたコップを机に叩きつけた。

 行儀悪く置かれたコップはカーン……とゴングのような音を響かせた。


「有給使って旅行に行ってくるだけじゃないですか。それともなんですか? 入ったばかりの新人は自由に有給取っちゃダメなんですか?」


 怒気を顕にして院長を睨むと、院長は激しく首を横に振った。


「そういう事じゃなくて……! 女の子が軽々しく男と遠出するなんて言っちゃだめだよ! 危ないよ!」


 年頃の女の子を心配する保護者みたいなことを言っている。

 いや、実際保護者か。

 相変わらず心配性な院長に、私はため息をつく。


「フォーとネイビーが変な事するわけないじゃないですか」

「男は狼なんだよ! 信用しちゃだめだよ!! ちょっと! 殿下も笑ってないでなんか言ってくださいよ!!」


 キャンキャン吠えていた院長の矛先が、私たちの会話を微笑ましそうに聞いていたクロッカス殿下に向く。

 殿下は虚を突かれたように一つ瞬きをすると、考え込むように顎に手を置いた。


「サクラはしっかりしているが、オレも心配と言えば心配だな。道中、何が起こるかわからない。ドラゴンに襲われるかもしれないし……」

「それはレアケースですよ」


 殿下じゃあるまいし、そんな運の悪いことは早々起こらないだろう。

 私の否定に殿下は困ったように笑った。


「いや、オレがドラゴンに襲われた上に断崖絶壁から落ちた先でリリーに出会ったのは、王家の直轄地の帰りだったからな。同じ道を行くんだ。同じことが起きないとも限らないだろう?」


 その話が関わってくるとは。

 仮に直轄地にDLCの情報があるのだとしたら、道中にイベントボスとしてドラゴンが配置されていてもおかしくないかもしれない。

 にわかに不安になってきた私の顔色を見て、クロッカス殿下がさり気なくグレイに目線を移す。


「そういうわけだ。グレイ、サクラについて行ってくれ」

「はい」

「なんで!? なんでボクじゃないんですか!!」


 真面目な顔で頷くグレイの横を抜けて、院長が殿下の腕を掴みにかかる。

 が、半泣きの院長はグレイに止められた。


アンバー(おまえ)が三人について行くのは、どう考えても不自然だろ。俺は三人とも関わりがあるから適任だろ」


 教皇の一件からフォーサイシアやネイビーと親しくしているグレイは確かに適任だ。

 しかしそれで折れる院長ではなかった。

 キッとグレイを睨みつけて悔しそうに拳を握る。


「そんな……親から子どもの面倒を任せられて、代わりに旅行に連れて行く親戚の叔父さんみたいな面をグレイがしないでよ!!」

「その通りだし、俺も親戚の叔父さんだよ!!」


 母方の叔父と父方の叔父の不毛な言い争いだ。


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