王都の外へ
フォーサイシアに相談したい事があると伝えると、窓から木漏れ日の指す一室に案内された。
木製の机と椅子がある、狭くも広くもない安心出来るような大きさの部屋だ。
円形のテーブルを囲んで三人で座る。
どこまで話すか悩んだけど、フォーサイシアは誠実なタイプだから、こちらも正直に話した方が良いだろう。
私がフォーサイシアに事情を話している間、ネイビーは私の隣に座ってスノウと話していた。
幼女二人が不器用に少しずつ仲良くなろうとしている。可愛い。
後で二人が遊ぶ時間を設けようと決意しつつ、ウィスタリアの話を終えた私はフォーサイシアを見つめた。
「そういうわけで、ウィスタリアを助けたいの。虹の女神やウィスタリアとコンタクトが取れる、魔法のアイテムとかない?」
「神とコンタクトが取れるアイテムなんて、宗教国家の聖王国にもないと思いますよ」
フォーサイシアが困ったように笑いながら答える。
ですよね。そんな簡単に答えが見つかるわけがないか。
わかっていた事だとはいえ、空振り続きで少なからず落胆してしまう。
そんな私をネイビーが心配そうに見つめて、不器用に頭をくしゃくしゃに撫でてきた。
「サクラ、元気、ない? だいじょーぶ?」
「うん、大丈夫。ありがとう、心配してくれて」
慌てて笑顔を作っても、ネイビーの表情は晴れない。
スノウの事を見透かしてきたのと同じように、私の作り笑顔も見透かされている気がする。
幼女を心配させちゃダメだなのになぁ。
大人として若干凹んでいる私と違い、真面目に考えこんでいたフォーサイシアが口を開いた。
「そもそもウィスタリアについて秘密の伝承があるなら、教皇だった父が何かしら知っていたはずです。いまだ拘留されている父から情報が出てこないのならば、教会で情報を探しても、それほど期待出来ないかもしれません」
フォーサイシアは冷静だ。
確かに教皇は釈放されたわけではないのだから、話を聞こうと思えば聞ける。
クロッカス殿下や院長がウィスタリアの呪いに関する情報収集として、教皇からも話を聞いていないわけがない。院長だったら、それこそ無理矢理にでも口を割らせる。
それでも解決策が私の耳に入ってこないという事は、ヒントになるような情報は出なかったという事だろう。
再び気落ちしそうな私に、フォーサイシアは安心させるように笑顔を見せた。
「ですので、別の視点から探すのはどうでしょう」
「別……?」
首を傾げる私に、フォーは頷く。
「ウィスタリアの初代国王陛下がお育ちになったのは、この王都ではなりません。その場所は現在、王家の直轄地になっています」
それは初耳だ。
でも確かに、この王都は『ウィスタリアが封印された上に建てた』のであって、初代国王陛下の生まれた場所ではない。
彼が生まれ育ったのは別の場所にある。
「王家の直轄地は現在、王侯貴族の避暑地や療養に利用される場所です。王都は時代に合わせて街並みも発展し、王国初期とは様変わりしていますが、そこは人の手があまり入っていないと聞きます」
初代国王陛下が生まれた場所だから、他の貴族の領地にしなかったのだろう。
理由はわかる。
しかし今回の件と関わりがないような気がする。
疑問符を浮かべたままの私にフォーサイシアが続ける。
「わざわざ初代国王陛下から、『私の生まれ育った場所には、誰も手を加えるな』と伝わっているほどだとか。ひょっとしたら、初代国王陛下が何かを残しているかもしれません」
「確かに……」
その身でウィスタリアの封印を続けてきた初代国王陛下。その彼がわざわざそんな言葉を伝えるくらいだ。何かあるかもしれない。
ようやく少し希望が見えた気がする。
顔を上げると、フォーサイシアが穏やかに微笑んだ。
「ちょうど私と兄さんで、直轄地の教会に行く用事があったんです。サクラさんが良ければ、一緒に行きませんか?」
「一緒! 行こう!」
「うん! 一緒に行く!」
私の宣言に、双子は顔を見合わせて笑った。
こういう時、私がフットワークが軽い立場で良かった。
フラックスやジェードだと階級や仕事の都合で軽々しく遠出しづらい。
動き辛い皆に変わって、私がしっかり調べてこよう。