幼女と幼女
久しぶりに訪れた教会は、今日も子どもたちの笑い声にあふれている。
元気良く挨拶をして来る子どもたちの間を抜けて庭を歩いていると、子どもたちに囲まれていた長髪の青年がこちらに気づいて振り返った。
「サクラ!」
子どものように無垢な笑顔を浮かべたネイビーが、子どもたちの間を縫って走り寄ってくる。
ネイビーは走る勢いのまま、私に抱きついてきた。
私は自分より長身のネイビーをしっかり抱き止めながら、彼の顔を見上げた。
「ネイビー、元気だった?」
「うん! サクラは?」
「私も元気だよ」
ネイビーに抱きつかれたまま会話する。
私はそんなに背が高くないから、ネイビーに包まれているようだ。前は肋骨が浮いて見えるほどガリガリで背だけ高かったけれど、今は健康的な体幹になりつつある。
良かった、幼女はこのまま健やかに育ってほしい。
感慨深くネイビーの背中に手を回して抱きしめると、ネイビーも嬉しそうに笑う。
暫くそうしていると、ふとネイビーが首を傾げた。
「……だれ?」
ネイビーが私を見ながら尋ねる。
周りを見回しても、近くに人はいない。
不思議に思ってネイビーをもう一度見上げると、ネイビーはまだ私を見つめていた。
「白い髪の、小さい女の子。きみ、だれ?」
『……ひょっとして、私の事を言ってるの?』
スノウが私の心の中で答えると、ネイビーはそれに応じるように笑顔になった。
「うん! おれ、ネイビー。きみは?」
『……スノウ』
「スノウ! こんにちは! はじめまして!」
私が声に出してないのに、会話が勝手に進んでいく。
この子たち、脳内で直接会話してる……!?
それだけでも驚きだが、私はまだ会話を続けそうなネイビーに慌ててストップをかけた。
「ネイビー! ちょっとストップ!」
「ん?」
ネイビーは不思議そうに再び首を傾げている。
しかし周りから見れば、私が話していないのにネイビーだけが会話している状況である。
今は遠目に子どもたちが遊んでいるのが見えるだけで、人目がないから良いが、大人の目についたらネイビーが変な人だと思われるかもしれない。
それだけは避けたいので、せめて他人の目がないところに行こうとネイビーに声をかけた。
「ネイビー、フォーサイシアは……」
「ここですよ、サクラ」
穏やかな声と共に、悠然とした足取りで姿を現したのはフォーサイシアだ。初めて会った時の憂いを秘めた表情はなく、自信と優しさに溢れた聖人のような微笑みを讃えている。
これは次期教皇って言われるのも納得の神々しさだ……。