信頼関係
葵に事情を説明してから一週間ほど経過したある日、グレイと一緒に訓練場にいた私に葵がコッソリ話しかけてきた。
「どう? 何か見つかった?」
「全然ダメ……」
「私も……」
二人そろって溜息をつく。
やはり主人公出ないと、隠しルートは見つけられないのだろうか。
だからと言ってアイリスに事情を説明する気にはなれない。どうしてもロータスと逃げ出した印象が頭にちらついてくる。いくらアイリスが成長したって言われてても、私は関わりが薄いからどこら辺が成長したのかまるで見えてこないのも理由だ。
要するに信用できない。
アイリスに話して、クロッカス殿下を排斥しようみたいな流れになっても困る。DLCはクロッカス殿下がいない世界なのだ。クロッカス殿下を助けようとしているのに、ゲームの修正力が働いて殿下に何かあるのは避けたい。
「フラックスとブルーアシード家に残ってる昔の文献を探したり、ジェードと『影』にある王家にまつわる資料を読み返したりしてるんだけどね……」
中々ヒントとなる情報は見つけられない。
焦ってもしかたないのかもしれないが、『雪の妖精』と連絡が取れなくなっている実情がある以上、何かしらが進行しているはずだ。
出来れば大ごとになる前に事態を収束させたい。
頭を悩ませる私に、葵が一つ頷いた。
「アイリスを信用できないなら、残るはロータスか、フォーサイシアか、ネイビーか、ジョン皇子かな」
そうだ、彼らも攻略対象だ。
フラックスやジェードとは違う視点からなら、何か情報が出てくるかもしれない。
ただ、私は訓練場をちらりと横目で見やった。
「ロータスはちょっと……」
私の目の前でグレイに負かされているのがロータスである。
「初対面より遥かに強くはなっているけど、やっぱり脳筋気質というか……うっかり人に事情を話しちゃいそうじゃない?」
「ロータスはそういう駆け引きが苦手なタイプだからね。アイリスの為ならいくらでも頑張れるし、口も堅いけどそれ以外はちょっと……。まぁそういうところが可愛いんだけどね~」
葵が苦笑交じりに微笑む。
良くも悪くもアイリス一筋のロータスは、アイリスが絡んでない現状ではマイナスになりかねない。
「ロータスに事情を話すのは遠慮しておこう。それに帝国の皇子も今は国に帰ってるから、連絡を取るのも難しいし……」
思い出すのは鷹のように鋭く獲物のように人も物も国も狙う皇子様だ。
葵も難しい顔で腕を組む。
「事情を話したら王国の問題にかこつけて、色々干渉してきそうだしね」
皇子は信用云々の前に油断ならない人だ。
それに国同士のやり取りになると大ごとになってしまう。
となると、信用出来て口が堅いあの二人に助けを求めるとしよう。
そう決意して、私は葵に向き直った。
「フォーサイシアとネイビーに話をしてくるよ」