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チュートリアル

『恋する革命~貴方の色に染まりたい~』


 略して『恋革』はゲームから始まり、漫画・小説・アニメと前世で大流行していた。

ロールプレイングゲームに選択肢による好感度システムの付いている所謂乙女ゲームというやつだ。

 が、私は乙女ゲームにまっっったく興味がなかった。

 モンスターをハントしたり、ゾンビを撃ったりするゲームの方が好き。

 少女漫画より少年漫画。ラブコメも嫌いじゃないけど、最終回に急に登場人物が結婚しだしても文句言わない派。

 うだうだ言うより敵の首を飛ばせ。


 そんな私でも主人公の顔くらいは見たことがある。

 流行っていたのもあるが、乙女ゲーム大好きな妹がプレイしていた所が大きい。

 私と正反対で妹は乙女ゲームが好き。推理ゲームとかも相手の心情を把握するのが得意だった。しかし、戦闘と名のつくシステムが致命的に苦手だったのだ。

 そして『恋革』は一般のRPGゲームと同じように冒険や戦闘も充実しており、一般受けしたのもこのおかげだと言える。

 結果、ゲームを進めたい妹は私に頼るようになった。


『お姉ちゃん! ここがクリアできないの~!』

『また? しかも前と同じ敵じゃない?』

『前はロータスルート! 今回はフラックスルートなの! この戦闘突破しないと先に進めなくて~』

『へ~。まぁいいけどさ。今度謎解きで困ったら一緒に考えてね』

『うん! ありがとう、お姉ちゃん!』


 戦闘はどうしても指がボタンに追いつかないとかなんとかで、『恋革』の時のボス戦は大体私がプレイしていた。

 なので主人公やその仲間、敵キャラのグラフィックはなんとなく覚えている。

 名前? 戦うだけだから主要メンバーくらいしか覚えてない。

 これが妹だったらこの国の名前を聞いた時点で即乙女ゲームの世界だと気が付いて、死亡キャラ救済とか知識無双できたのにな……。


 なんで私なんだ。


 あと普通に年月が経ってて忘れていた。

 なんせ私がこの世界に来てから10年経っている。

 10年前の妹が遊んでたゲームのことなんて覚えてられないよ。

 ある日いつものように起きたら異世界で幼女に転生してたんだぞ。

 こっちの知識を1から学ぶだけでいっぱいいっぱいだったわ。


「大丈夫ですか? 私がぶつかったせいで、どこかお加減でも……」

「え、あ、大丈夫です」


 その声に現実に引き戻された。

 目の前には私の手を取って立ち上がった少女が困惑気に見つめていた。

 改めて見ると同じ人種と思えないほど完成された造形である。


「可愛い……流石主人公……」


 思わずしみじみと呟いてしまった。

 彼女は『恋革』の主人公、アイリス・ノア・ウィスタリア。

 この『ウィスタリア王国』の女王陛下という尊い身分である。

 10年前、幼くして王位についた彼女だが政治の実権は伯父に握られており、お飾りの女王として人形のように生きてきた。

 そんな彼女が攻略対象と城を飛び出し、各地をめぐって絆を深め、仲間を増やし、ラスボスの伯父を倒す。

 それがこのゲームの一連の流れだったはずだ。

 妹が説明してくれたのでそれくらいは知ってる。

 主人公のアイリスが城の外にいるってことは、つまりゲームが開始されたということで……。


「アイリスさま!」


 再び聞き覚えのある声と共にマントの少年が姿を現した。

 燃えるような赤い髪、朱色の瞳を持つ同じ年くらいの少年だ。白を基調とした軍服に剣を携え、いかにも快活な騎士といった風貌である。


「ロータス!」


 アイリスが少年に駆け寄る。

 なんか見たことあると思ったら、やっぱり攻略対象のロータスか。

 ということはロータスルートなんだね。

 並ぶと絵になる二人、というよりメディアでもよく見た二人を見て、本当にゲームの世界なんだと実感が湧いてくる。

 だからと言ってゲームに関わる気はないんですけどね。

 革命なんて危ないことに首突っ込むつもりないので。


「じゃあ私はこれで……」

「いたぞー!」


 そそくさと退散しようとしたら、軍服の男が三人駆けつけてきた。

 ロータスと違って、相手は黒を基調とした軍服である。

 あ~、いかにも敵側の下っ端兵士~!


「しつこいな……。でもここで捕まるわけにはいかない!」

「ロータス……私も戦います! 守られてばかりもいられません!」

「アイリスさま……!」

「盛り上がってるところ悪いんですけど、私は関係ない一般市民……いや、通行人Aなんうわぁ!」


 そっと離れようと思ったら、アイリスが放った魔法の光が飛んできた。真横から飛んできた光弾を避けられた私を誰か褒めてほしい。


「あ、ごめんなさい! そんなに魔法使ったことなくて……」

「ごめんなさいで済むか! 慣れない魔法を安易に使うなって習わなかったの!?」


 思わず怒鳴ったらアイリスは怯え、庇うようにロータスが前に出てくる。


「アイリスさまの御前だぞ! 口の聞き方をわきまえろ!」

「こんなところに女王陛下がいるわけないでしょ!」


 いるんだけどさ。

 でも常識的に考えてそう返すのが普通でしょ。

 お互い一歩も引かずににらみ合っていたら、周りで戸惑っていた下っ端の兵士さんたちがアイリスを捕まえようと向かってくる。

 巻き込まれないように一歩下がるも、どうやら遅かったらしい。

 なぜか私にも剣を向けられている。


「私、関係ないんだけどな!」


 ロータスに二人、私に一人だからまだいいけど。

 

「大人しくしていろ。そうすれば手荒な真似はしない」

「わかりました。私は善良な一般市民なので従います」


 兵士さんの言葉に頷いて抵抗の意思がないことを示すように手を挙げる。

 軍服って頃は国の軍隊だ。逆らっていいことはない。

 ちらりとロータスの方を見れば、二対二で善戦している。


「多分、チュートリアル戦か何かかな……」


 お互いに使う魔法はほぼ初期魔法。剣の筋も荒い。

 ちなみにロータスが放った炎の魔法もあらぬ方向に飛んでいくものがある。


「お前もかよ……」


 初期で命中補正とかないからか?

 そもそも街中で炎の魔法なんて使って火災になったらどうするんだ。

 何気なくロータスの放った魔法がどこに飛んだか目を向けた。

 

 燃えてた。

 

 裏路地に置いてあったゴミか何かに着弾したのだろう。目を向けた瞬間に何かに引火したように火の勢いが増した。そのまま壁を焼きながらじりじりと勢いを増すばかりである


「ちょっと、後ろ! 兵士さん、後ろー!」

「なんだぁ? え……」

 ちょうど背を向けていた私を見張る兵士に知らせたところ、後ろを振り返って絶句してしまった。


「火事! 火事になっちゃう! なんとかできませんか!?」

「俺、魔法使えなくて……なんとか出来る人呼んでくるから待ってろ! 隊長ー! 隊長~!!」


 確かに魔法なんてこの世界だと人口の1割しか使えないもんな。

 私の中途半端な魔法じゃどうにもならないし。

 でも兵士さんは慌てて人を呼びに駆けだしていってくれた。

 いい人だ。 


 一方、ロータスたちは兵士二人を倒して手を取り合っている。

 そんな場合じゃないんですけど。


「ちょっと! 貴方の魔法で火事になりそうなんですけど! 責任取ってどうにかしてください!」

「え、あ。……すまない、今急いでるんだ! 君が魔法で消しておいてくれ!」

「はぁ!? 魔法使える人が少数だってわかって言ってます!? 私も属性魔法は扱えませんよ!」


 そう言ったらアイリスもロータスも大層驚いた顔をした。

 初めて知ったのか? 嘘でしょ??


「貴族様なんて血統のお陰か魔法が使えて当たり前かも知れませんけど、魔法なんて凶器振り回すのと同じことですからね! 自分のやったことの責任は自分で取れ!」


 怒りと嫉妬に任せて怒鳴る。

 せっかく魔法の使える世界に転生したのに。どうせ私は属性魔法が使えない中途半端な人間なんだよ!


 ロータスを睨みつけていると、ふいにこちらに駆けてくる足音が聞こえた。

 ひょっとしてさっきの兵士さんが戻ってきてくれたのか?

 その足音を聞いて、呆然としていたロータスが我に返る。


「すまない。国の為にここで捕まるわけにはいかないんだ……!」


 アイリスの手を取って、足音とは正反対に駆けだす。

 アイリスはロータスと私の顔を交互に見て、申し訳なさそうな顔をしている。


「は?」


 ド低音の声が自分の口から漏れる。

 ゲームの流れ的に捕まったら進行不能になるからそういう行動になったのかもしれないけど、私にとってはこの世界は現実だ。

 

「自分の行動に責任も取れない奴に国がどうの言ってほしくないな……」


 私にできる数少ない魔法『身体強化』を使う。

 使っても別に見た目が変わるわけではない。魔法においては初歩の初歩。ダメージを軽減したり、速さが上がったりするが、微々たる物だ。意識して使ってる人の方が少ない。

 

 でも意識すれば使い方があるって教えてもらったから。


 自分の身体に十分魔力が巡ったのを確認してから地を蹴る。

 普段の自分では信じられないほどの速さで駆け、二人の後ではなく民家の壁に向かう。

 『身体強化』のおかげで、まるでゲームのバグ技のように壁をそのまま走る。

 気分は忍者。

 そのまま駆け抜けて、逃げている二人の頭上に追いつく。

 驚かせる暇も与えない。

 そのまま壁を蹴って勢いのまま踵落としをロータスの脳天に決めた。

 走っていた勢いそのままに倒れこむロータス。

 手を掴んで走っていたアイリスも一緒に倒れこむ―――前に、私が手で支えた。


「……え?」


 アイリスの呆然とした声が響く。

 何が起こったのか理解できていないのだろう。

 

「鬼ごっこはおしまいだよ。ゲームじゃないんだから」


 チュートリアルから『恋革』をぶち壊してしまったが、心は晴れやかだ。


 ありがとう、院長。貴方の教えは無駄じゃなかったです。

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よくやった!!!!!スッキリした!
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