シスコン同盟
しかし院長も保護者として心配で来てくれたのだろう。
なんで合鍵を持っているのかとか、なんで部屋で二人きりだとわかったのかは置いておく。院長なのでしょうがない。後で殴ろう。
ひとまず葵が院長から変な誤解を受けないようにしなければ。
そう判断して私が口を開く前に、葵が私の肩を叩いた。
「任せて、サクラちゃん」
そう言うと、葵が私より一方で前に出て院長と向かい合う。
院長はそんな葵を値踏みするような視線を向けるだけだ。
葵はやけに自信満々で胸を張って一礼した。
「お久しぶりです、アンバーさん。サクラちゃんは俺……いや、私の」
そこで葵は一呼吸いれた。
院長は嘘を見抜いてくるけど、葵なら大丈夫だろう。ゲーム知識も話術も私より上だ。
葵はこの上なく良い笑顔で院長に宣言した。
「私の前世のお姉ちゃんなんです!」
前言撤回。
葵に任せるのは間違いだった。
それで納得する奴がどこにいるんだ。
嘘じゃないけど、真にそんな事言ったら病院送りにされてもおかしくない。
院長はフッと唇に笑みを作った。
「なるほど。だから魂が似てるんですね」
納得した……だと……!?
いや、魂ってなんだ。院長には何が見えてるんだ。
混乱する私を置いて、院長は真面目な顔で眼鏡を直す。
「ですが、それとこれとは話が別です。前世はどうであれ、今は血縁もない他人ではないですか」
「なに言ってるんですか! 前世でも今世でもお姉ちゃんはお姉ちゃんですよ! それともアンバーさんのお姉さんへの思いは、今世限りなんですか!?」
「……! 確かに」
『新たな知見を得た』みたいな顔で納得しないで欲しい。
リリーさんに嫌われてるのに、めげずにシスコンの院長にはクリティカルヒットする言葉だったようだ。
それに葵も真面目な顔で何を言っているんだ。
院長が嘘と断言しないってことは、それ本心から言ってるの?
私が困惑と混乱の間で悩んでいる間に、葵と院長はガッチリと握手を交わしていた。
「誤解して申し訳ありませんでした。今までにない視点の意見を聞くのは新鮮な驚きを得られますね」
「いえ、わかって貰えて嬉しいです。また今度話しましょうね」
言葉を交わして手を離した二人は、その笑顔のまま私の方へ顔を向ける。
「サクラちゃん、今日はもう遅いから帰るね。長居しちゃってごめんね!」
「夜も遅いので、戸締りはしっかりしてくださいね。サクラさん」
それだけ言うと、二人揃って部屋から出て行ってしまった。
後に残るのは、呆然と立ち尽くしたままの私とモグラだけである。
「なんだったのだ、あいつら」
モグラの言葉が部屋に響いた。