ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ
「葵には悪いけど、ジェードは弟だと思ってるんだ。恋愛感情はないよ」
私がきっぱり言い切ると葵はうわっ……って引いたような顔で私を見てきた。
むしろ声に出てた。失礼な奴だな。
ついでにスノウにも聞いてみる。
スノウがジェードの事を好きなら応援するけど。
『ジェードはアンバーに似て、とっても可愛いから仲良くなりたいけど……ジェードはお姉さまの事が好きみたいだから、邪魔したら可哀想だもの。私は見てるだけで良いわ』
スノウまでジェードに同情したような、気の毒そうな声が伝わってきた。
スノウは家族愛と恋愛がまだわかってないのかもしれない。
幼女だからね。可愛いな。
しかし葵が戻ってきてくれたし、いい機会なので私からも葵に質問する。
「葵の方こそどうなの? ジェードが推しだったじゃん。どうなりたいとかあるの?」
「そんなおこがましい事考えてないよ。推しを間近で見られるだけで満足……。私は壁になりたい……。むしろ私がジェード君と話してる時、変な事してなかった!? 不審者だと思われてないかな!?」
葵が鼻息荒くまくし立ててきた。
前世と全く同じだ。懐かしい。
私は呆れながらも葵を落ち着かせるように、葵の肩に手を置いた。
「見た感じが普通に話せてたよ」
「本当!? 良かった~」
葵はほっとしたように弾けるような笑顔を見せる。葵はそのまま明るい笑顔で続けた。
「そもそも今の私は男だからかな~。アイリス……女の子と話しててもドキドキするし、カッコいい男の子にも目を奪われるし……どっちも好きになれてお得だよね!」
「メンタルゴリラ?」
普通、身体と精神の不一致で悩むのが普通じゃないのか?
それすらも楽しんでるんじゃないよ。恋愛脳って最強だな。
心配して損した。
しかし葵は私の発言が気に入らなかったらしい。目くじらを立てて頬を膨らませた。
「酷〜い! お姉ちゃんこそ、フィジカルゴ……」
「あん?」
思わず低い声が出てしまった。
「私は魔法で強化しているだけで、実際に腕力が強いわけじゃないんだよ。強化してない時は、片手でリンゴが割れるくらいの力しかないわ」
「え、それ、ゴリ……」
それ以上言うなら拳で黙らす、というように片手で拳を構えると、葵は首を縦に振って黙り込んだ。
姉妹揃ってゴリラは勘弁だ。
私は拳を解いて溜息をつく。
「葵にも聞きたかったんだけどさ。DLCってアンバーとの和解ルートとかないの?」
「多分、あると思うけど……バグで隠しルートを探すどころじゃなかったからさぁ」
葵も今までのふざけたじゃれ合いを引っ込めて、真面目な顔でに顎の下に手を置く。
クリアも難しいバグ満載のゲームで、隠しルートどころじゃないか。
「もし何か思い出したら教えて。そこにウィスタリアを助ける方法があるかもしれない」
「うん、わかった。私もゲームに関係がありそうなところを探してみるよ」
「ありがと、葵」
まるで謎解きを出されたときのように、わくわくとした顔で葵が頷く。
頭使うのは葵の方が得意だから、何か見つけてきてくれるかもしれない。
しかし、いつまでも葵を引き留めておくのも悪い。夜も遅いので、そろそろ解散しようかと葵に声をかけようとしたところで。
玄関の扉がノックされた。