実家の味
ジェードが作ってくれたのは、鶏肉とレモンのスパイス仕立てである。ただ煮込んだだけの鶏肉とはわけが違う。スパイスが絶妙なアクセントになっている。
私の手料理なんて目ではない。
モグラが来るまで、小麦粉を煮込んだ粥とか豆を煮込んだスープで過ごしてたいから、ジェードと料理の腕に差が付いているのが明白になってしまった。
事実、横にいるモグラが私の分を盗み食いするレベルだ。
私が作らなくて良かったな。ジェードに失望されるところだった。
喜んで良いのか悲しんで良いのか、一口食べて悶々としてしまったが、ジェードの緊張したような顔が目に入って、慌てて口の中の食べ物を飲み込んだ。
「ありがとう、ジェード。凄く美味しいよ。私が作るより上手くなっててビックリしちゃった」
「そんな事ない。昔、サクラの作ってくれた料理の方が美味しかったよ」
はにかんだ笑いを浮かべながら、ジェードは嬉しい事を言ってくれる。
でもそれ、『実家の味』という補正が効いているだけだよ。ジェードの方が上手いって。
しかし、姉としての威厳を保つためにそのことは胸に秘め、笑って誤魔化した。
「はは、そうだと良いんだけど……。でもこれだけ料理が出来るなら、ジェードは良い旦那さんになるね」
「え……うん。そうだと良いな」
料理の出来る男子はモテる。間違いない。
ジェードは私の言葉に照れて赤くなっていた。
こういうところは純粋というか、まだまだ子どもだなぁ。
思わず微笑ましくジェードを眺めていたら、今度は葵が料理を持ってきた。
「見てよ、サクラちゃん。俺の自信作!」
葵が自身満々に出してきたのはーーー肉じゃがである。
思わず二度見した。
糸コンニャクは入ってなかったけど、ほぼ完璧な肉じゃがだった。
葵、ジャガイモとか醤油とか、どこから仕入れたの??? この国で売ってるところ、見た事ないんだけど???
異世界でジャガイモを探したり、醤油を作ったりする工程に、異世界転生物のお約束みたいな波瀾万丈な展開があってからお出しされる物じゃないのか。
ジェードがいなかったら、間違いなく諸々ツッコミを入れていた。しかし今はジェードの目があるので、黙って食べるのみである。
「な、なんか見た事ない料理だね〜。いただきまーす」
棒読みの感想を添えながら、一口。
実家の味だーーー!!
母から料理を習っていた妹が作る、実家の味そのものだった。
懐かしさと感動で、思わず片方の目から涙が一筋頬を伝う。
「完璧……」
「でしょ?」
葵が満足したように何度も頷く。
惜しむべきは白米がない事。異世界だから仕方ない。
「そ、そんなに……?」
ジェードが戸惑ったような声をあげた。
ごめん、ジェード。やっぱり実家の味が一番だ……。