料理対決
三人で買い物を済ませ、帰ってくる頃にはもう日が落ちていた。
「ただいま」
「遅かったではないか」
私が玄関の扉を開けると、ソファで寝転んで、豪快に寝息を立てていたモグラがむくっと起きてこちらを見る。
これが土の大妖精なんだよな……。ちょっと悲しくなってきた。
今は私の家で食っちゃ寝しているだけの、ただのモグラである。
地の魔力を取り戻すのには、大地のエネルギーを吸って育った作物などを食べて、なるべく動かないのが一番効率が良いらしい。
本当かどうかは知らない。ただ単に、このモグラがダラダラしていたいだけな気がする。
でもスノウのお人形遊びに付き合ってくれたり、スノウに魔法の理論を教えてくれたりと中々面倒見の良いモグラなので、私は食事と寝る場所を提供するのに異論はない。
モグラは私の後ろにいるジェードと葵を見て、首を傾げた。
「客人も一緒か。珍しいな」
「うん。今日は皆で食べようと思って……」
話しながら、二人の方へ振り返る。
ジェードと葵に荷物を持ってもらっていたのだ。私も分けて持つと言ったのに、男二人に全部持たれてしまった。
そんな女扱いしなくても良いのに。二人とも家族だし。
二人から荷物を受け取って、調理にかかろうと思ったのだが、振り返った時には二人はいなかった。
慌てて正面を見ると、私とモグラが話している隙に、すでに二人して中に入って荷物を置いて手を洗っている。
「サクラちゃん。調理場借りるね~」
「ちょっと! 余計な事しないでよ。僕だけで十分なんだから!」
言い合いながらも、二人して下準備に取り掛かっている。
「あの、二人とも? 私が二人へのお礼に夕飯を作るって話だったんだけど……」
慌てて二人の後ろに回ってストップをかける。
が、逆にジェードに調理場から追い出されてしまった。
「サクラ、刃物を扱うから、後ろにいると危ないよ」
「そうそう。それに俺、サクラちゃんに新作の料理の味見してもらいたいんだよね。ほら、その……昔との違いとかをわかるの、サクラちゃんだけだしさ」
葵が目線で訴えてくる。
前世の知識の料理って事か。それは確かに味を知ってるのは私と葵だけだろうけど。
今じゃなくても良くない?
おかげでジェードが対抗意識を持って、料理を作り始めちゃったじゃん。
それともまさか―――推しと一緒に料理を作るために敢えて対抗意識を煽っている……?
改めて葵を見れば、楽しそうにジェードを話しながら料理をしていた。ジェードの方は対抗意識と負けん気をむき出しにしながらも、葵の料理が気になるのか、時々葵の手元を見て尋ねたりしている。葵はそれに、にっこにこの笑顔で答えていて―――。
我が妹ながら策士だ。感心する。
でも葵が楽しそうだから良いか。
私は二人の間に挟まらないように、そっとモグラのいるソファに退避した。
ソファに座ると、横にいるモグラが少し心配そうに尋ねてくる。
「あ奴らの料理は美味いのか……?」
「大丈夫だよ。むしろ私のより上手だと思うよ」
ジェードは女王陛下付きのの執事として、毒見も兼ねて一流の食べ物を食べてるだろうし、料理の腕も昔から良かった。きっと『影』で良くも悪くも鍛えられてるだろうから、院長みたいになんでも作れるようになってるだろう。
葵も前世で料理が好きだったし、今も前世の知識を生かしてカフェ経営とかしてるらしいから、より腕に磨きがかかっているだろう。私も懐かしい前世の物を食べられそうで、ちょっと期待してしまう。
そう考えると、そんな舌の肥えている二人に料理を作ろうと思ったのは無謀だったかもしれない。
思わず乾いた笑いを浮かべていたら、隣にいるモグラに腕をポンと叩かれた。
「我はお前の料理が一番だと思うぞ」
「ありがとう……」
モグラの慰めが胸に沁みるぜ。