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推し

 夕暮れ時、私とジェードは急いで中央街に向かう。

 前世と違って、商品を売るようなお店は夜遅くまで開いていないのだ。そうは言っても流石王都のいうべきか、夕方でも多くの人が行きかっている。

 人の間を縫いながら、夕飯の献立を考えていると、不意に背後から声がかかった。


「あれ、お……」


 不自然に声が途切れる。今のはモブ君―――葵の声だ。

 不審に思って振り返ると、葵はジェードを見つめて咳をするように口元を押さえる。

 葵は誤魔化すようにわざとらしい咳を二・三度すると、ようやく私に視線を向けた。


「お、お久し振りだね! サクラちゃん!」

「うん……。そうだね……」


 無理がないか?

 そう思いながらも返事を返す。

 ジェードもあからさまに不審そうな顔で葵を見ている。

 そういえば、今思い返すとモブ君はジェードに不意打ちで合うと会う時、口元を隠していた。中身が妹だと分かった今、『今日も推しが尊い』ってにやけてるのが想像に余りある。目元も髪で隠れてるから表情がわからなかったが、葵だとわかっていると表情が透けて見える。

 ジェードが変質者に出会った小学生みたいに、警戒感を顕にしているのも納得である。

 葵は表情を取り繕えたのか、口元から手を離して、いつもの穏やかな笑顔で軽く片手を挙げる。


「これから帰り? それとも二人で食事でも行くの?」


 推しから不審な目で見られてるのに、普通に話を続ける胆力よ。

 前世の知識で無双するには精神力も必要だったのかもしれない。色々商売に手を出してるみたいだし、偉い人と交渉とか多そうだもんね。

 呆れながらも私は葵を見上げた。


「そうだよ。私の家で夕飯食べようって話になったの」

「えっ」


 何故か葵は驚いたような顔で、私とジェードを交互に見た。

 そして両手の腕を組んで、悩むように空を見上げた後、葵は何かを決意したように私に視線を戻す。


「……俺も言ってもいい?」

「は?」

「いいよ」

「サクラ!?」


 なんか会話の途中でジェードの威嚇するような低い声が聞こえた気がしたけど、気のせいだろう。

 葵は推しと一緒に居たいんだろうな……と、私は生暖かい目を向けながら返事をする。

 ジェードが驚愕した表情で私を見上げてくるので、私は両手を合わせてお願いの姿勢を取った。


「モブ君もお世話になってるから、丁度いいかと思って。ジェードを助ける時も、モブ君がヒントくれたんだよ。ジェードが他人がいるのが嫌なら断るけど……ダメかな?」


 私としては弟と妹だから家族で食事するような気軽さだったけど、ジェードからしたら他人だもんね。

 実際ジェードは悔しそうな顔で葵を睨んでいる。

 ジェードが嫌なら葵には悪いけど断ろう、と思っていると葵が横から口を挟んできた。


「いくらジェード君でも、サクラちゃんとお家で二人っきりは怒られると思うよ? その……各方面から。もちろん、サクラちゃんも一緒に怒られると思うけどさ」

「そんな怒られないよ」


 院長は私とジェードの関係を知ってるから怒らないだろう。……多分。

 ジェードをちらっと見ると、院長に怒られる場面を想像したのか、顔が青くなっている。ああ、トラウマが刺激されてる。

 私がジェードのフォローに入る前に、真面目な顔の葵に追撃される。


「グレイ隊長は怒るよ。間違いない」

「う……確かに」


 グレイは常識人の真面目なタイプだから、いくら幼馴染で姉弟みたいな関係でも血のつながらない異性と部屋で夜まで過ごすなって言ってきそうではある。お父さんかな?

 それまで話を聞いて、ジェードは苦虫を嚙み潰したような顔で渋々頷いた。


「わかったよ。アンタも来ていいけど……サクラの為だから、勘違いしないでよね」


 何故かツンデレみたいなセリフになってる。

 ジェードの言葉に、何故か葵の顔が微笑ましい物を見る年上のお兄さんの顔になった。


「ありがとう、ジェード君。そうと決まれば、買い物はさっさと済ませちゃおう!」


 元気のいい葵の掛け声と共に、私たちは三人で歩き出した。


弟(血がつながってない赤の他人)と妹(年上の赤の他人の男)

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