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決意

 翌日。

 仕事終わりにジェードを呼び出して、今回の一件を話すことにした。

 ジェードに紹介してもらった例の一室で、お互いにソファに隣同士で腰掛ける。


「ジェード、ごめんね。度々呼び出しちゃって」

「ううん、全然大丈夫だよ。僕はサクラに助けてもらったから、サクラが困ってたら助けたいんだ」

「ありがとう、ジェード」


 背の低いジェードが上目遣いで見上げてくる。

 なんて良い弟なんだ。姉として幸せである。

 感動しながらも、私はクロッカス殿下の呪いとウィスタリアの事について話しを切り出した。

 どこまで話すか迷ったけど、ジェードは『王の影』だ。ウィスタリアが地下に封じられていることも、『雪の妖精』の事も包み隠さず正直に話す。

 ジェードは驚いているようだったけど、終始真剣に話を聞いてくれた。


「そっか。『雪の妖精』の一族しか知る事が出来ない話ってなんだろうって思ってたけど、そういうことだったんだね。堕ちた神が封印されてるなんて、迂闊に他人には話せないよ」


 ジェードが納得したように頷く。

 初めて『影』の本部に行った時、ジェードが院長に聞いて話すのを断られていた内容である。


「でもジェードの事は信頼してるからね。院長も、私の判断で話して良いって言ってたし、怒られることはないから安心して」


 私の言葉に、ジェードは照れたような笑顔を浮かべて、表情を隠すように下を向いた。


「そう……じゃあ……僕にしか話してないんだ」

「ううん、フラックス様にも話したよ」


 ジェードの顔が凍り付いたような気がした。

 そのままギギギ……と錆びついたような動作で私に視線を向ける。


「なんで……ブルーアシード様に……?」

「フラックス様は殿下の義理の息子だから、話しておいた方が良いでしょ。殿下も同意してくれたし、フラックス様も調べるのに協力してくれるって」


 ジェードはなぜか苦虫を百匹嚙み潰したような顔をしている。

 ひょっとして一番に話してくれなかったことに怒っているんだろうか。まだまだ子どもっぽいところがある。思わず微笑ましくなった。


「でもフラックス様は『雪の妖精』が『影』の長をやってる事とか、私がその血を引いてるとか知らないから内緒にしておいてね」


 これは伝えておかないと支障が出るかもしれないので、一言添えて置く。

 フラックスには私がスノウだと気づかれていない。殿下も貴族同士のいざこざに私を巻き込まないように、いくら義理の息子でも実の娘の事を公表することはないだろう。

 私の話に、ジェードは何かを決意したように拳を握りしめる。


「わかった。でも僕の方が情報収集は得意だよ! ブルーアシード様より、僕の方が役に立つから!」

「ジェードは優秀だもんね。わかってるよ」


 フラックスに対抗心を燃やしているのだろうか。

 やっぱりまだ子どもだな。可愛い。

 思わず昔のように頭を撫でると、ジェードは拗ねたような顔になる。


「わかってないよ……。でも僕がブルーアシード様なんて目じゃないところをみせてあげるから、見てて」


 そう言って私を見上げる顔は、少年から青年への変わり目を見ているように、決意に溢れた男らしくカッコイイ顔だった。

 こうやって子どもは成長するんだな。

 少しの寂しさと嬉しさを胸に私は頷いた。


「うん、でも無茶はしないでね」

「わかってるよ。へまなんかしない」


 自信に溢れる小生意気な笑顔を浮かべるジェード。

 う~ん、こうやってみると確かに院長に似てなくもない。

 スノウの言葉を思い出して、少し複雑な気分になる。

 やっぱり院長に問いただした方がいいんだろうか。でも証拠もないし、否定されたらそれまでだからな……。

 悩んでいたら、突然黙った私にジェードが首を傾げた。


「どうしたの?」

「あ、その……夕飯まだでしょ? これから食べていかない? 奢るよ」 


 慌てて別の話題を口にする。

 もともとジェードと食事でもしたいと思っていたのだ。このところ色々ありすぎたから、気楽に何でもないことを話したい。

 それにジェードには色々お世話になっているから、感謝も込めて奢らせてもらう。

 しかしそれに否を唱えたのはジェードであった。


「食事は良いけど、奢りはダメ。僕が奢るから!」

「いや、ジェード。ここは年上を立てて。それに話し合いの部屋を提供してもらったり、フォーサイシアの時に助けてもらったりしたからさ。お礼だよ」

「フォーサイシアの時は僕も助けてもらったよ!」


 話し合いは平行線である。

 困ったな。ここまで頑なとは。

 しかし言い争って喧嘩をしたいわけじゃない。

 とっさに私は別の案を口にした。


「私の家で夕飯食べない? 材料費出し合ってくれればいいし、私が作るから」


 私の言葉で、ジェードの動きが停止した。

 数秒後、ジェードはなぜか嬉しさと複雑さ半々といった表情で、私を見上げてきた。


「……良いの?」

「良いよ。むしろジェードは大丈夫? 昔は孤児院で私の作った料理、食べてくれてたけど」


 あの時は『美味しい』って無邪気に食べてくれてたけど、今は王宮で執事やってるから、美味しい物は食べなれてそうな気がする。

 私の作った物で大丈夫だろうか。

 少し不安になってきたが、ジェードは笑顔で頷いた。


「勿論だよ。サクラの作った料理、久しぶりだから楽しみだな」


 なんて良い弟なんだ。


 よ~し! お姉ちゃん、頑張っちゃうぞ!


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