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ピタゴラスイッチ

 私が壁を走れるのもバグなんだろうか。DLCのせいで『恋革』本編にもバグが生じた弊害かもしれない。

 使い勝手がいいから、壁走りはこれからも使うけど。

 そもそも私にとってはこの世界はゲームじゃなくて現実だから、使えるの物は使う。特に問題が起きるわけでもないし。

 そう結論付けて、私はいまだに黄昏ている葵に質問した。


「アンバーとはなんで争う事になるの?」


 これが一番重要だ。

 チートとバグ満載の院長と戦って勝てるわけがない。そもそも院長は育ての親なので、拳で語り合う以外は戦いたくない。対立せずに、平和に解決出来れば万々歳だ。

 しかし葵は少し難しい顔で腕組みをした。


「まずね。アンバーが堕ちた神の封印を解こうとしてるから、ウィスタリア国内で色々と異変が起きるの。主人公のアイリスたちはその異変の原因を探って、最終的に封印を解こうとするアンバーを止めるために戦うんだ」

「え?」


 おかしな話だ。

 思わず首を傾ける。


「院長は……アンバーは封印を守る立場だよ。『雪の妖精』の子孫はずっと封印を守ってきたし、今だって先祖代々の役割を全うしているよ」


 堕ちた神の封印はこの間、院長に案内してもらった地下の封印だ。

 その時の院長に、封印を解こうなんて考えは微塵も見られなかった。

 眉を顰める私に葵は目を伏せて、躊躇いがちに口を開いた。


「DLCはね……クロッカス殿下が処刑された後の話なの」


 頭を殴られたような衝撃に襲われた。

 そうだ。『恋革』本編では、ラスボスのクロッカス殿下はアイリスと和解しないと死んでしまうのだ。

 大前提だったはずなのに、すっかり忘れていた。

 呆然とする私に、躊躇いがちに葵が話を続ける。


「堕ちた神の封印にクロッカス殿下の身体だか魂が囚われてて……それを取り戻したいから、アンバーは封印を解こうとしてるって話だったんだ」


 地下の棺。死んだ後もアレに義兄が囚われてしまったら。リリーさんが身を投げ打ってあの棺に入ったのに、結局クロッカス殿下を助けられなかったら。

 院長のメンタルは相当追い込まれてしまうかもしれない。

 しかし、いくらメンタルが弱々な院長でも、それだけで封印を解こうとするなんてしないはずだ。


「グレイやスノウもいるでしょ? それでもアンバーは止めなかったの?」


 院長はあの二人も大事にしている。いくら殿下がいなくても、二人の身が危険に晒されるような真似はしないはずだ。

 しかし葵は首を横に振った。


「ゲームではアイリスに会ってスノウの記憶が戻るって最初に説明したでしょ? それでアンバーがスノウを迎えに来るんだけど、その時にスノウがリリーの事件の真相を話しちゃって......」

「それは......仕方ないね......」


 院長は私が巻き込まれた時のように、様子を見に来てくれたのだろう。

 スノウからしたら、母親に殺されかけた後、急に知らない場所で目が覚めたようなものだ。そこに自分を可愛がってくれた叔父が来たら、色々話したくもなる。


「それで姉を殺されたと知ったアンバーが、グレイと仲違いしちゃって......。ゲーム中でも二人の仲はギスギスしてるんだ」


 院長はグレイを許せなかったのか。ちょっとしたタイミングの違いで、あの二人の仲がそこまで悪くなるなんて思わなかった。


「スノウは情勢が不安定だから『影』に預けられるんだ。けど、精神が5歳のスノウは父親にも叔父にも構ってもらえないのと、母親の事件の影響で余計に不安定になってて、八つ当たりみたいにアイリスにちょっかいをかけるようになるの」

「スノウが?」


 理由はわからなくもない。

 アイリスがいなければ、父も叔父も自分を構ってくれるはずだという、子どもじみた思考だろう。

 しかしそれも中身か5歳児だからである。


「いくら身体が15歳でも、中身が伴っていないとアイリスに『悪役令嬢』として妨害なんて出来そうにないけど?」


私の疑問に、葵は真剣な顔になる。


「スノウはアンバーと同じで『雪の妖精』の子孫だよ。だからアンバーがいないのを良い事に、『影』に命令を出してたの。そこに攻略対象との恋愛感情も絡んでくるから、余計にややこしくなるんだけど......」


 院長が恐怖で『影』を支配してたせいか、スノウの命令も『影』は拒否できなかったんだろうな。

 幼馴染のグレイとは仲違いに終わり、スノウが勝手に『影』を動かして後始末に追われて、アイリスへの対応が後手後手に回った挙句にクロッカス殿下を亡くしたら、院長のメンタルは恐らく持たない。

 元々メンタルが弱い人なのだ。

 その状態でストッパーのクロッカス殿下ががいなくなったら、何をしでかすかわかったものじゃない。


「最悪のピタゴラスイッチじゃん」


 思わず腕を組んで唸る私に、葵は慌てて笑顔を作った。


「だからクロッカス殿下の身に問題が起こらなければ、DLCの内容は発生しないと思うんだ」

「……そっか。そうだよね」


 なんせ現状、院長とグレイは仲違いしてないし、スノウは私の中で大人しくしている。アイリスとクロッカス殿下も和解した。

 DLCの要素は何一つない。


「良かった。これからは心置きなく平和な日常を過ごせるんだ!」


残念ですが、次回からDLC編です。

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