考察は外すもの
「このままジェードは帰っても……大丈夫なんですか?」
ここまで罠が仕掛けられているのに、このまま帰ってもジェードが無事でいると信じられるほど頭にお花畑は咲いていない。院長に対する不信感は増すばかりだ。
「さぁ、私からは何とも。決めるのはあの方ですので」
アンバーは肩を竦めた後にじっと私を見る。
「サクラさん。貴方はすでに察しているかも知れませんが、私もジェードも国の暗部ともいえる『王の影』に属しています。国を守るためという建前はありますが、実際は人を騙したり殺したり後ろ暗いことは山ほどしています。そんな人間と関わらない方がいい」
きっぱりとしたアンバーの声が地下に響く。ジェードも俯いて何も言わない。
対して私はアンバーを睨みつけて答える。
「そういう訳にはいきません。大体、ジェードの件は院長のせいじゃないですか! 私はジェードの幼馴染で一緒に暮らした家族だと思ってます。貴女や院長にどうこう言われて付き合いを変えるつもりはありません」
「……そうですか。私は止めましたからね」
アンバーは嘆息交じりに言葉を吐き出す。一方でジェードは呆気にとられたように私を見つめていた。
「サクラ……」
「大丈夫。ジェードの事は院長と拳で話し合いして説得してくるから」
ジェードだけでなく私の時もそうだが、勝手に子どもの将来を決定しないでほしい。権力があるなら猶更だ。
それにジェードから話を聞いても、不信感が募っても、私にとってはこの世界で初めて会った優しい院長の姿が根底にある。10年間関わった彼の態度が偽りだったとしても、この目で見て納得するまでは信じていたい気持ちがある。
手のひらに拳を打つ私に、ジェードは思わず噴き出した。
「サクラってば相変わらずだね。でもそんなので……」
「そんなことしなくても、貴女が言えば聞いてくれるでしょう。貴女はあの方の特別だ」
アンバーがジェードの言葉に被せるように答える。
「特別……?」
「貴女に会うためにわざわざ時間を割いていたと聞きました。勉学も魔法も貴女だけ特別仕様だったんでしょう? どうしてそこまで貴女に入れ込んでいたのか謎ですけどね」
確かに私は『属性魔法』も使えないし、特別な才能なんてない。けど、院長も同じく『属性魔法』が使えないと言っていた。その同情や憐憫の延長だったのだろうか?
ジェードも疑問だったのか少し考える素振りを見せた。
「あの人が入れ込むなんて『御伽噺』だと王家の人間だけだと思ってたけど……」
「御伽噺?」
なんで急に御伽噺が出てくるんだと首を捻ったけど、ややあって納得した。
「ひょっとして院長の容姿が『御伽噺』の『雪の妖精』と同じで白髪金目だからそんなこと言ってるの? やだ~、ジェードったら。確かに院長は人間離れした身体能力してるし、時々常識が欠如してるし、全然年取ってるように見えないけど人間だよ! そもそも妖精なんてお話の中にしか存在しないじゃん!」
「「…………」」
なんで二人そろって絶句してるんだ。
アンバーにはついでとばかりに哀れみの籠った目線まで向けられてしまった。
本当に失礼な奴だな。