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バグる指輪

 葵の言葉は私の前世も今も両方助けるって話なんだろうけど、妹には私の為に危ない橋を渡って欲しくない。

 私は自分の服の裾を握りつつ、葵を見つめた。


「葵がそんな無茶しなくても、私は今も幸せだし、周りにも助けてくれる人がいるから大丈夫だよ」

「私がしたいからしてるだけなの。お姉ちゃんは気にしないで。それにゲーム通りの動きをすれば失敗しないってわかったのも収穫だし」


 葵は気にした風もなく笑顔でピースした。

 ダメだ。これはまた何かあったら、絶対にまた無茶をする。前世からの付き合いでよくわかる。

 いざとなったら殴って気絶させてでも止めよう。

 心の中で密かに決意しながら、私は諦めたようにため息をついた。


「ロータスにサルファーの皇子を助けるように頼んだのも葵だよね?」

「うん。流石に隣国との戦争は止めたかったの。それに舞台が帝国に移っちゃうと、私も物理的に追いかけるの大変だし……。だから話を聞いてくれそうなロータスに頼んだんだ」


 そこで葵は再びジト目で私を見た。


「なんでかお姉ちゃんがまた巻き込まれてたけど」

「私もなんでかわかんないよ。ロータスが怪しい動きをしてたから追いかけただけ」


 タイミングとしか言いようがない。

 その後もずるずると巻き込まれる形で、土の大妖精の封印まで解く羽目になって大変だった。


「やっぱり主人公のアイリスが不在で物語に干渉するからダメなんじゃない? 虹の女神さまに聞いてみたら? 虹の女神と相談してこの世界に来たって言ってたよね」


 私の質問に葵は首を横に振った。


「虹の女神さまはこの世界に来る前に話したきりだよ。前世の知識以外はチートも特に付与されてないしね。今まで自力で何とかしてきたの」

「えっ。そうなの?」


 てっきり最高神から何らかのチートでも付与されてると思ったけど、そうでもなかったらしい。

 ゲーム知識のアドバンテージはあれど、領地改革も喫茶店経営諸々も葵の実力ってわけか。凄い妹だ。

 感心していたら、葵は自分の服の内ポケットから何かを取り出した。

 それは指輪だった。シンプルな銀に透明な石が一つはめ込まれているだけだが、その石に光が反射すると七色にキラキラと光る。不思議な指輪だ。


「これは……?」

「これね、本当は物語終盤に手に入る指輪なんだ。これを持ってるとウィスタリア国内なら一瞬で行き来できるようになるの。終盤の移動時間短縮用の代物だよ」

「アネモネに『水鏡』を渡したり、ロータスに会いに行くのに、この指輪を使ってたのね」

「そういうこと。アイリスが脱走して、物語が始まったっぽいから手に入れておいたの」


 アネモネの時、院長でさえ犯人の移動を追いきれなかったのは、こんなチートじみた指輪があったからか。

 興味津々で葵の手のひらの中の指輪を覗いていると、葵が困ったような顔をした。


「ただ、使用者の私がアイリスじゃないせいか、物語が終盤でもないのに使ったからかわからないけど、この指輪、たまにバグるって言うか……」


 葵が話している最中に、指輪に異変が生じた。

 先ほどまで光に反射して柔らかな七色の光を放っていたのに、突如目に痛いほどの光を発しながら不規則に点滅し始めた。

 ビカビカとミラーボールみたいな輝きである。ただし点滅が不規則すぎて不安になる輝きだ。


「葵? バグってコレ?」

「あ、ヤバ……」


 葵が焦ったように私から数歩離れる。

 すると指輪が部屋を包むほどの閃光を放った。

 余りに強烈な光に思わず目を瞑る。目を瞑っていてもわかるほどの激しい光だ。

 暫くして光が収まったのを確認するために恐る恐る目を開けると、私と葵の間に一人の少女が立っているのが見えた。

 日にあたったことがないような白い肌。絹のようにサラサラな薄紫の髪と大きな瞳。花びらを押し当てたような赤い唇。思わず守ってあげたくなるような可愛らしい顔。

 葵はお姫様のような煌びやかなドレスを纏ったその少女に、両手を合わせて謝った。


「ごめーん、アイリス! また指輪がおかしくなっちゃった~!」


 少女は―――アイリスは嬉しそうな顔で葵を見上げる。


「いいえ、良いのです。また逢えて嬉しいですわ、アオイ」

「うっ、優しい……。天使かな……。今回は私の家じゃないから、お菓子も用意できないし、一緒にお出かけもできないんだ。ごめんね」


 謝り倒す葵に、アイリスははにかんだような笑顔を見せた。


「私はアオイに会える方が嬉しいですわ」

「本当? そう言ってくれると嬉しいな」


 仲睦まじく会話する葵とアイリス。

 これは今回が初めてじゃないな。しょっちゅう指輪がアイリスを召喚していると見た。

 呆然としている私に、ようやくアイリスが気づいたようで目線がかち合った。


「あら、あなたは……」

「あ、私のおね……友達のサクラちゃんだよ!」


 いつもの葵のノリで紹介しようとするな。

 今は葵の身体はモブ君なのである。『お姉ちゃん』なんて紹介したら混乱必須だ。

 しかしアイリスは周りを見渡して、ムッとしたような顔になった。


「こんな狭い部屋で……二人きりで何を話されていたのですか?」

「え、あ、えーっと……色々?」


 葵はそっと目を逸らした。

 仕方ない。アイリスには話せない事満載である。前世の事とか特に。

 アイリスはキッと私を可愛らしく睨んで―――葵に抱き着いた。


 なん……だと……!?


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