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悪役令嬢

「私もお姉ちゃんが魔法を避けたり、ロータスを蹴り飛ばすのを見て『私以外の転生者だ!』って気づたんだ。明らかに日本人の名前だったし。だから最初は『転生者』の目的を探る為にお姉ちゃんと仲良くなろうとしたの。ごめんね」


 葵がしょげながら謝ってくる。


「いや、警戒するのも仕方ないよ。「桜」なんて日本人にはよくある名前だし」


 私もその状況で自分以外の転生者がゲームに干渉してきたら警戒するよ。仕方ない。

 しかし葵は何故か生暖かい笑顔になる。


「まぁ、話しててすぐに『これ、お姉ちゃんだな』って気づいたんだけどね」

「気づいてたんなら、もっと早く打ち明けてよ!?」


 葵がいてくれたら、攻略対象やゲームの流れについて前もって準備出来たのに。

 しかし葵は頬を膨らませて反論してくる。


「言おうとしたよ! 何回も! その度に邪魔が入るんだもん。私だって前世がどうのこうの言って、周りに『頭がおかしい人』って思われたくなかったの! 仕方ないじゃん!」


 確かにモブ君と話してると、ジェードやフラックスがやたら邪魔しに来てたな。

 確かに人目がある時には話しにくい内容だ。

 普通の人に聞かれたら、真っ先に病院に連れて行かれる。

 ぐぅの音も出ない私に、葵は拗ねたように追い討ちをかけてくる。


「それにお姉ちゃんだって、私が妹だって気づいてくれなかったじゃん!」

「妹が年上の男になってるなんて、思うわけないでしょ!」


 言葉に出すと余計に意味がわからない。

 妹が年上の男になるってなんだ。脳が理解を拒否する。

 しかし私が悪いのも事実だ。

 こういう時は謝ろう。私はお姉ちゃんだし。


「でも、気づかなくてごめん。葵は何回も勇気を出して言おうとしてくれたのに、いつも後回しにしちゃって悪かったよ」

「お姉ちゃん......。私こそごめんね。実はジェードやフラックスへの当て馬を全力で楽しんでたから、そんなに気にしてないよ」

「なんて?」

「こっちの話! もー、お姉ちゃんってば、昔から鈍いんだから〜」


 何故か楽しそうな妹に、私はずっと感じていた疑問をぶつける。


「葵は攻略対象と仲良くなったりしないの?」


 あんなに『恋革』が好きだったんだから、『攻略対象と友達になりたい!』とかないのだろうか。

 私の問いかけに葵は笑顔を見せた。


「最初はあったけど、攻略対象と関わらなくても今は充実してるし、別にいいかな。そもそも虹の女神さまが、私を男としてこの世界に転移させたのも、カプ厨......アイリスと攻略対象の間に挟まる人間絶許女神だったのかもしれないからね!」

「そんな私欲塗れの最高神、嫌だよ」


 そんなのが最高神で大丈夫か、この世界。

 男になっても葵は納得してるからいいけどさ。これで葵が傷ついてたら、最高神だろうが殴るぞ。

 心の中で虹の女神にメンチを切っていたら、葵が何かを思い出したように手を叩いた。


「お姉ちゃんもジェードと喫茶店行ったでしょ? あれも私が経営してるんだよ」

「え!?」

「他にも色々やってるんだけど......。現代の物がこんな中世世界にあるって違和感なかったの?」


 葵に心の底から不思議そうな顔をされて、思わず目を背ける。

 そんな事、考えてもなかった。

 でも姉としてのプライドが、素直に伝えるのを拒む。


「......乙女ゲームだから、都合良く現代の物もあるのかと思ってた」

「あ、なるほどね〜。よくあるもんね」


 よくあるんだ。葵は納得してくれたけど、乙女ゲームをしないから、知らなかった。

 でも確かによく考えてみたら、ジェードと行った喫茶店は食べ物も内装も現代じみてた。物珍しいから人気があったんだろう。

 それにしても葵は異世界人生を楽しんでいるらしい。顔を見ればわかる。目をキラキラさせて、次は何をしようか考えている。

 勉強と修行しかしてこなかった私と大違いだ。

 まぁ、性格の違いってやつだ。私が妹と同じ立場でも、喫茶店の経営とか事業の拡大とか絶対にしない。


 面倒くさい。


 私は地道に生きるよ。葵は頑張って欲しい。そして妹を男にしやがった虹の女神は絶対に殴る。

 心ので決意しつつ、これで納得がいった部分もある。


「私が『悪役令嬢』役だから、攻略対象とやたらと出会う羽目になったんだね......」

「そうだね。スノウが攻略対象に出会うのも、また運命だから」


 妹が夢見るように呟く。

 中身が妹でも外見がモブ君だから、その、なんだ、違和感が凄い。

 そもそも運命というより、世界が『中身が違くても役割を全うしろ』という後押し込みだったのだろう。


「でも実際にはアイリスの恋路の邪魔なんてしていないよ。......むしろ私が攻略対象の事件に巻き込まれてたんだけど」

「お姉ちゃんは巻き込まれたんじゃなくて、自分で首突っ込んでたじゃん」


 葵が半目で指摘してくる。

 確かに葵......モブ君と関わった事件はジェードの時と、フォーサイシアの時の児童誘拐事件だったから、私が積極的に関わっていたように見えただろう。


「ジェードの時は幼馴染が死にそうだったからで、誘拐事件の時は孤児院の子が巻き込まれてたから。それ以外は不可抗力だよ」


 改めて遺憾の意を唱えても、葵の表情から疑いの眼差しは消えなかった。解せない。

 ジェードとフォーサイシア以外。つまりフラックスとサイファーの皇子は、外部からの妙な干渉のせいで私が巻き込まれる羽目になったのに......。


 待てよ。


「葵......。アンタ、フラックスとサイファーの皇子の時、なにか干渉した?」

「え? なんの事?」


 葵はすっとぼけた顔をしているが、私を舐めないで欲しい。

 何年『姉』として一緒に過ごしてきたと思ってるんだ。例え妹の身体が別人になろうが、表情でわかるぞ。


「葵?」


 指をベキベキ鳴らしながら脅す。

 葵は顔を引き攣らせて、降参するように両手を上げた。


 やっぱりこの手に限るな。


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