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転生したら男だった件について~せっかくの乙女ゲームなのにTSするなんて聞いてない!~

 お姉ちゃん……?


 そんな風に私を呼ぶ人間は、この世界にはいない。前世の妹だけがそう呼んでいた。

 唖然とする私の前で、モブ君は髪をかき上げた。

 茶色の目が私と合う。そうしてにかっと―――まるで妹のような笑顔を見せた。

 顔は全くの別人なのに、この表情に見覚えがある。ありすぎるくらいに。


(あおい)……?」


 呆然と呟いた私にモブ君は―――葵はムムっとした顔で腕を組む。


「納得できないなら、お姉ちゃんの前世の家族構成でも言おうか? お姉ちゃんは月見 桜。お父さんは月見 草太(そうた)で、お母さんは月見 百合(ゆり)、妹は月見 葵。実家の住所は〇〇県〇〇市✕✕ー✕✕✕。なんなら親戚の叔父さんたちの名前も言ってもいいけど?」

「わかった、わかったから。本当に葵なんだ……」


 久しぶりに聞いたけど、前世の情報はどれも間違っていない。

 これには無理やりにでも納得するしかない。ないのだが―――どうしても、納得できな所がある。


「葵……なんで……なんで私より年上の男になってるの!?」

「わかんない。私が聞きたいよ」


 葵が溜息をついて肩を竦める。

 転生した妹がTSしていた件について。

 それだけでも衝撃で頭がクラクラしているのに、葵は容赦なく次の衝撃を放った。


「私は虹の女神さまに頼まれて、この世界に来たんだけど~」

「待って」


 初っ端からとんでもない情報が飛び込んできた。


「『虹の女神』って、この世界の最上位の神様なんだけど? そんな偉い神様に頼まれてきたの!?」

「そうだよ? お姉ちゃんは違うの?」


 葵は不思議そうに首を傾げる。どうやら『虹の女神』に頼まれてこの世界に来たと思っていたらしい。


「いや、私は『雪の妖精』に頼まれて……」

「え~!? 『恋革』の重要人物じゃん! いいな~!」


 妹は羨ましがっているけど、私は葵の方が羨ましい。

 『虹の女神』は『雪の妖精』と違って、交渉した記憶を消して突然この世界にGO! しなかったに違いない。

 黄昏る私とは反対に、葵は真剣な表情に戻った。


「お姉ちゃん、事故にあったの覚えてる? お姉ちゃんは事故の後に目を覚まさなくって……。どうにかお姉ちゃんを助けたい! って思ってたらゲームから声が聞こえて……それで『虹の女神』さまと話し合って、10年前のこの世界に来たの」

「え? じゃあ私、一応生きてるの?」

「うん、意識は戻らないけど……」


 葵は肩を落としている。車が突っ込んできた時に、私が咄嗟に庇ったせいだろうか、責任を感じてしまったんだろう。

 でももう私は『転生』してしまっているから、戻れないんじゃないかな……。しょげてる妹の前でそんな事、言えないけど。

 だから私は殊更明るく笑顔で葵の―――今は男の子で、私より背が高くなってしまったモブ君の頭を撫でた。


「私の為にそんな事してくれたんだ。葵ってば私の事大好きなんだから~」

「お姉ちゃ~ん」


 葵がひしっと抱き着いてくる。

 前世でもこうしてふざけてたな。今は肉体が他人同士だから、他の人に見られたらあらぬ誤解を招きそうである。

 ここは人目がないので、しばらく懐かしの抱擁を楽しんだ後にそっと離れる。

 葵の目に涙が滲んでいるけど、私も同じような顔かもしれない。

 妹の前で泣くわけにもいかないので、別の話題で気を逸らすことにした。


「でも10年前って結構昔だね。私もその時くらいに記憶が戻ったんだけど」

「お姉ちゃんも? 私は死んじゃったばかりの男の子の身体を借りて、この世界で生活してたんだよ」

「そうなんだ。私はスノウと同じ魂だから、前世の記憶を無理矢理引き出されて目が覚めた感じだったんだ」


 そのせいで私の場合、スノウと魂で同居しているような歪な形になってしまっている。反対に葵は肉体の再利用方式だったようだ。

 神様も妖精も倫理観がない。人間じゃないから仕方ないけど。


「でも10年前からいたなら、ゲームに介入しようと思わなかったの?」


 妹は私と違って『恋革』に精通している。

 しかも『虹の女神』に頼まれるとかいう、異世界転生物の王道みたいな導入だったのだ。

 干渉できるなら10年前から干渉してそうだけど、出来なかった理由でもあるのだろうか。

 葵は私の質問に腕を組んで難しい顔をした。


「それがさ、私が肉体を貰った男の子―――モーブ君が、男爵家の三男でね」

「うん……?」

「男爵家は借金まみれだし、父親も兄たちも領地から税金を搾り取る事しか頭にないし、領地の皆はそのせいで困窮してるしで、私が何とかしないと! って思ってそっちにかかりきりになってたんだよね」

「前世の知識で領地改革無双してたの?」


 なんかそういうの、なろう小説にありそうだな。


「それでどうにか借金を返して領地を立て直したら、お兄さんたちから『三男のお前が余計なことをするな』って追い出されちゃって~」

「追放物まで網羅してるの?」


 ますますなろう小説みたいになってきた。


「それで仕方ないから王都まで来て、適当に兵士になりつつお金を貯めて、『恋革』になんとか干渉できないかな~って思ってたら、領地の皆が嘆願書を出してくれたみたいでさ。アンバー直々に『領地に帰って爵位を得ても良いですし、殿下の下で働いてもいいですよ』って言ってもらえたんだ! いや~、お兄さんたちには悪いけど、領地の皆が好きだったからそこまで皆にしてもらって嬉しかったな~!」

「ざまぁ展開までしてんの?」


 呆れる私に葵は清々しい笑顔を向ける。


「でも『恋革』が始まっちゃうと、内乱で国が大変になっちゃうじゃん? だから、どうにかしたくて『軍役が終わる3年間はしっかり務めてから考えます』ってアンバーに答えたんだ。領地に居たら王都から遠いし、クロッカス殿下の部署は忙しくてゲームに干渉できなそうだからさ。―――そしたらグレイ隊長に気に入られて、今に至る感じ」


 なるほど、責任感があると思われてグレイに気に入られたんだな。モブ君とグレイが仲が良さそうなのはそう言う事か。

 多分、アンバー……院長も自分の意見がはっきりしてるタイプが好きそうだから、気に入られてそうな気がする。

 そんな皆に好かれる妹に向けて、私はふっと笑ってこう言った。


「なろう小説の主人公かよ」


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