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女難の相

 パチン、と指を鳴らす音と共に壁際に姿を現したのは、クロッカス殿下と院長だ。

 クロッカス殿下は壁に寄りかかって腕を組み、こちらを睨んでいる。

 院長は片手でクロッカス殿下の腕を掴み、反対の手は指を鳴らした仕草のままだ。悪戯が成功した子どもみたいな笑みを浮かべている。


 院長の魔法で姿を消してたのか。それにしたって、まるで気配がなかったけど!?


 驚いたのはグレイも同じようで、思わず立ち上がって呆然と二人に問う。


「……いつからいたんだ」

「最初から。ボク達、姿を消して二人の後を追いかけてたんだよ。こんな尾行に気づかないなんて、相当焦ってたんだね。グレイ」


 院長がクロッカス殿下から手を離しながら、グレイにいつもの笑顔を向けた。


「あ、ちゃんと盗聴透視対策はしておいたから、安心して」


 予想とは随分異なる反応だ。

 最初から聞いていたという事は、リリーさんの話も聞いたのだろう。もっと怒って暴れると思ったのに。

 いや、そもそも。


「なんで後をつけてたんですか……?」


 殿下も院長も何も気づいた様子はなく、普通に送り出してくれたのに。

 私の疑問に、殿下と院長はお互いに視線を合わせる。そして二人そろって再び私に視線を向けた。

 最初に口を開いたのは院長だ。


「スノウが殿下に走り寄った時点で、殿下が姉さんを殺したんじゃないって思ったんだよ。スノウは幼いから、殿下が姉さんを殺してたら再会した時に怯えたり、何かしら反応するでしょ? それもなかったし、ボクが殿下に逢いに行こうって言った時に、サクラも反対しなかったじゃないか。殿下もサクラとスノウの反応で気づいたでしょ?」


 院長の言葉にクロッカス殿下も黙って頷く。

 二人とも内乱の後の権力争いを制して今まで最高権力者として君臨してきただけある。人の行動から心を読むのが上手い。

 今度はクロッカス殿下がグレイを見据えて口を開く。


「それに加えて、グレイはスノウが戻ってきた時から様子がおかしかった。サクラもグレイと二人で話したい―――いや、オレたちに話を聞かれたくない様子だったからな。あえて見逃した方が話を聞けるだろうと踏んでいた」


 院長も同意するように頷いている。

 完全に泳がされていた。優しさで帰してくれたと思ったら策略だった。とんだ悪役だ。


 あ、そもそもラスボスだった。


 それにしたって、クロッカス殿下も院長も冷静だ。真実を聞いても取り乱した様子もない。

 グレイもそれに違和感を覚えたのか、ようやく二人に目を向けた。


「二人とも……姐さんが何をしたか聞いて、驚かないのかよ。お嬢を殺そうとしたって話してただろう」


 話すのも苦しそうなグレイに対して、院長はふっと哀愁漂う笑みを向けた。


「グレイ……。ボクの姉さんだよ? 基本的に性格悪いんだ」

「姉弟揃って揃って最悪かよ。あー、なんか納得したわ」


 グレイは一気に肩の力が抜けたように脱力した。

 リリーさん、聖女だなんだと祭り上げられてたけど、根っこはアンバーと同じ性格なんだな……。


「リリーの事だ。死んでも反省していないだろう。相変わらず悪い女だ」


 苦笑交じりに、懐かしむようにクロッカス殿下が呟く。

 グレイがそれを聞いて頭を振る。


「なんでそんな女を好きになったんですか、兄上……」

「人を好きになるのに理由がいるのか?」

「そうなんですけどね!? 女運まで最悪なの止めてくださいよ!」


 クロッカス殿下はグレイに肩を掴まれて揺さぶられても笑顔だ。


 殿下って性格に問題がある人が好みなのかな……。


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