オモシレー女
執務室を出て、グレイと連れ立って歩く。
グレイが先導してくれているので、二人きりで話せる所に向かっているのだろう。
普通は犯人について行ったら死亡エンドが濃厚だが、今までのグレイの信頼がなくなったわけではないので大人しく着いていく。
グレイも私も黙り込んで歩いているせいか、空気が重い。
沈黙が続く中、抱えていたモグラが存在をアピールするように腕を叩いてきた。
「ひょっとして何かあったら我を盾にするつもりか?」
「え? なんかあったら院長達に報せに走って貰おうと思ったんだけど」
モグラの声は他に聞こえないので、私は小声で答える。
流石に大妖精を盾にするのは後が怖い。何を要求されるかわからない。
せめて院長に報せるくらいは頼んでも大丈夫かな〜って思ったんだけど、ダメだろうか。
モグラは私をじっと見た後にため息をついた。
「我、大妖精ぞ? もう少し頼りにしても良いのだぞ?」
「なるべく自分で出来る事は自分で解決しようと思ってるから。気持ちだけ受け取っておくよ」
大妖精に守ってもらえるなんて、烏滸がましい事は考えない。私はアイリスみたいな愛されヒロインではないので、大妖精の力を借りると碌な事にならないに決まっている。
院長も妖精を信用するなって言ってたからね。
「お前のような小娘一人、守るくらい他愛ないのだぞ? 今なら加護もつけるぞ?」
「いや、いいから。加護の押し売りしないで。院長達を呼びに行ってくれれば良いから。それとも、それが嫌なの?」
毎回院長と言い合いばかりしているから、顔を合わせたくないのだろうか。
だからって加護はいらない。妖精の加護って碌な事にならない。水の上を走れる代わりに、水の中に入れなくなる系のマイナスイメージだ。
私が首を傾げてモグラを見ると、モグラはふんっと鼻を鳴らした。
「確かにあの生意気な小僧を呼びに行くのは癪だな。それに、我の加護をいらぬと言ったのはお前が初めてだ。人間は皆、力を欲しがると思っていたが......お前は違うのだな。面白い奴よ」
まさかのオモシレー女判定された。
妖精の基準、よくわかんないな。
困惑していたら、モグラが短い腕を組んでドヤ顔を向けてくる。
「あの小僧より我が頼りになると証明してやろう。何が起きても安心するが良い」
「はぁ......」
日本人必殺、了承したかどうか曖昧な答えでお茶を濁す。
何かあったら自分で解決しよう。そうしよう。
とはいえ、グレイが本気を出したら私が持ち堪えられるか謎だけど。
今までグレイに稽古してもらって、一撃も当てられた事がない。
それに過去の映像でリリーさんと戦っている所を見たけど、二人とも目が追いつかないくらいの剣捌きだった。
あれから10年経って、より強くなってると思うと身震いする。
世の中、達人がいっぱいいるな。もっと強くならないと。
それにこの体はスノウのものだ。怪我をさせたくない。
だからってモグラに頼るのはな......。
ウンウン唸ったいたら、グレイはいつもの訓練所を通り過ぎ、隊長室と思わしき部屋に私を案内した。