死亡フラグは自ら立てる
院長がモグラに指を指されて大笑いされている中、今まで固まったように動かなかったグレイがようやく息を吐いた。
「そうか......記憶が戻ったんだな。お嬢」
グレイを認識したスノウは私の後ろに隠れてしまった。おかげで急に私の意識が前面に出てきた感じだ。
グレイに敵意はなく、観念したような犯人のような顔である。実際そうなんだけど。
スノウと身体を共有している以上、私はまだクロッカス殿下に抱きしめられている。しかし私はスノウではないので猫のようにそっと、丁重に殿下の膝から降りた。
クロッカス殿下は少し残念そうな顔をしているが、いくら私でも羞恥心を持っている。それに親子の再会を邪魔して申し訳ないが、こちらはこちらで解決しなければならない問題がある。
グレイがリリーさんを殺した事を黙っていたという事実だ。
それを探偵のようにこの場で暴露する事も出来る。
グレイなら暴れたりせず、素直に事実を話してくれるだろう。
問題は院長。
言えるか? あのシスコンの前で? 院長が友達だと公言しているグレイがリリーさんを殺したって?
グレイが黙ってた事も含めて、キレてお城ごと吹っ飛ばしそうな気がする。
殿下を疑ってる今だってメンタルが不安定なのに、別の角度から真犯人が友達でしたとか言ったらどうなるか。
基本的に院長はメンタル弱々なんだ。暫く立ち直れないと思う。最悪、当たり散らかして暴れる。
クロッカス殿下はショックを受けるだろうけど、院長とは違ってメンタル強々なタイプだ。内心はどうあれ、冷静に対処してくれるだろう。
しかしここで急に院長を追い出して、殿下とグレイだけで話そうとすると院長に怪しまれる。
だからここは......。
「スノウは疲れたみたいなんで、大事を取って私も帰りますね。グレイ隊長、送ってもらっても良いですか?」
院長はまだ地面に突っ伏しているので、嘘をつくなら今しかないだろう。
ここで真犯人と二人になるとか死亡フラグすぎるが、致し方ない。
いざという時の為に、床で笑い転げているモグラをさっと回収する。モグラに怪訝そうな顔をされたが今は無視だ。
グレイも驚いているが、何かを察したように頷いてくれた。
「ああ、いいぜ。お嬢も色々あって混乱してるだろうしな」
ここで選択を間違えてはいけない。
私の死亡フラグどころではない事態になる。
院長が闇落ちするとか、DLCが始まるとか、そんな予感がひしひしとする。
しかし私の選択が間違っている可能性もある。
正解のわからない私は、わからないなりに足掻くしかないのだ。
「え? ボクが行ーーー」
「お前は仕事が溜まっているだろう。ダメだ」
ガバッと顔をあげた院長を、クロッカス殿下が止める。そして殿下はさっさと来いと言わんばかりに、院長に顎で示す。
院長はぐうの音も出ないようで、渋々立ち上がってクロッカス殿下の隣に立つ。
そんな二人に私は少し頭を下げた。
「申し訳ありません。お二人は聞きたい事があるでしょうが、次の機会にさせてください」
二人とも、リリーさんの事が聞きたいだろう。
でもここで暴露するのは勘弁願いたい。
せめて院長の対策を立ててからにしたい。
クロッカス殿下は私の言葉に苦笑した。
「いいさ。スノウが話したい時に話してくれれば良い」
「そうそう。無理される方が嫌だからね」
院長も穏やかな笑顔だ。
10年も真相がわからなかったのだ。一刻も早く知りたいだろうに、優しい人達だ。
出来ればこの人達を傷つけずに解決したいが、難しいところだろう。
きっとグレイも二人を傷つけたくないから黙ってるんだろうな......。