ボス戦
とにかく地下から脱出するために、私もジェードも無言で走り続ける。先ほどまでの会話で混乱してて何を言っていいかわからないのもある。
やがて今までの通路より開けた場所に出た。今までの道より天井が高い。でも向かい側には道が続いているようなので、この空間を通過しないと先に進めないのは確かだ。
明らかにボス戦みたいなステージ来たんですけど? こんな所ゲームではなかったんだが???
嫌な予感しかしないが、進まないと出られないので謎の空間に足を踏み込む。真ん中まで来たあたりで、通路の先から大型の蜘蛛たちが湧き出るように壁に張り付き、行き道を拒んだ。振り返れば今来た道も蜘蛛たちによって容赦なく塞がれている。
回避不可なイベントですか?
そして万を持してといった感じで暗い天井から現れたのは3メートルくらいは余裕でありそうな8本の長い足を持つ毒々しい色合いの大蜘蛛だ。8つある単眼が私たちを見る。明らかに友好的ではない。あれは完全に巣に入った獲物を見ている。
おかしい。中ボスがこんな所で出てくるなんて。このゲーム壊れてるのでは?
嘆いていても仕方ない。なぜなら大蜘蛛から白い糸がこちらに向かって吐き出されたからだ。網状のそれに捕まると身動きが取れなくなる上にその間も容赦なく攻撃してくるのだ。ゲームで戦ったから知ってる。
「ジェード! とにかく避けて!」
「わ、わかった……!」
二人でばらばらの方向に走り出す。
中盤だったら糸に絡めとられて上から攻撃されても耐えられるけど、最序盤なんて一撃で死にかねない。だからとにかく避けるしかない。なんだ、この縛りゲー。
幸い他の蜘蛛たちは邪魔しないように壁に張り付いているだけだ。これはプレイヤーを逃がさないための措置なだけだ。襲ってくることはない。ゲームと同じなら大蜘蛛を攻略すれば蜘蛛の子を散らす勢いであいつらは消える。
それならやってやろうじゃないか。戦闘なら任せろ。
まずはジェードに攻撃が向かないようにこちらにヘイトを向けさせる。確か攻撃頻度によってヘイト管理出来たはず。
走りながら小石を拾う。
後は簡単。『身体強化』して小石に『物質強化』をかけて投げる!!
矢のように飛んで行った小石は大蜘蛛の目の一つに命中。血なのか体液なのかわからない何かが飛び散り、大蜘蛛が身もだえする。
思ったよりダメージ入ってるな。
考えてみると私のレベルってどれくらいかわからない。ステータスが見れるわけでもないから、ジェードたちと同じくレベルが上がってない状態だと思ったけど、そうでもないのかもしれない。なんせモブなので。
しかしそのおかげで大蜘蛛のヘイトが完全にこちらに向いた。
「ジェード! 頼みがあるんだけど!」
「何? そもそもサクラが大丈夫!?」
「大丈夫じゃないから近くに来ないで!」
怒涛の糸と毒針の連続攻撃を躱しながらなので、ジェードが近くに居たら守れる自信がない。
「それより天井に亀裂があるから、そこに魔法で攻撃して!」
ゲームでこの戦闘はギミック付きだった。魔法や飛び道具である程度天井を攻撃すると天井が一部崩れて大蜘蛛ごと落下してくる。それによる大ダメージと、地上に落ちてきた大蜘蛛がひっくり返っている間に袋叩きにすることで戦闘を早めに終わらせることができる。
ゲームと場所が違うからこのギミックも顕在かわからなかったけど、見た限り天井にいくつか亀裂が入っているので、そこは変わってないと思いたい。
ジェードは天井を見上げ、意図を察してくれたのか魔法で攻撃を始める。
優秀~!
後はジェードに大蜘蛛の注意が向かないように、適度に小石をぶつけて私に攻撃を集中させる。大蜘蛛の攻撃よりも院長がぶん投げてくる小石の方が速かったので避けられる。
やがてジェードの魔法が亀裂の全てに当たると、音を立てて天井の一部が大蜘蛛ごと落下してきた。
ゲーム通りで良かった!
後は攻撃を叩き込むのみ。天井と一緒に落ちてきた鉄製の棒を引っ掴み、壁を蹴って跳躍する。
「『生き物は頭を潰せば大体倒せる』!」
院長の言葉通り、落下の勢いと合わせて鉄の棒を大蜘蛛の頭に叩き込む。深々と大蜘蛛の頭に突き刺さった部分から緑の体液が噴き出す。
大蜘蛛は抵抗を見せず、足を痙攣させた後に動かなくなった。倒せた……のかな?
もっと時間かかると思ってたんだけどな。思ったより私のレベル高そうだ。