表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

259/372

魂の帰路

 私達が目を覚ますと、飛び込んできたのは院長の仏頂面だ。

 ついでに、何故か院長に膝枕をされている。

 『雪の妖精』への対抗意識だろうか。変な所で競わないで欲しい。

 呆れている私と違って、純粋なスノウが困ったように尋ねた。


「......アンバー、怒ってるの?」


 スノウの問いかけに、院長はふっと表情を和らげた。


「怒ってないよ。お帰り、スノウ」


 院長に頭を撫でられて、スノウが笑顔になる。

 不思議な感覚だ。

 スノウが喋ってるのに、私の意識がある。スノウの中から外を見ている感覚だ。

 ちなみにいつでも交代できる。例えるなら、今スポットライトが当たっているのがスノウで、交代して私がそこに立てば私に主導権が移るような感じだ。

 自分の事なので、なんとなく感覚で理解できた。

 院長はスノウを撫でながら心配そうな顔をする。


「あのクソジ......『雪の妖精』となにかあったんでしょ? 大丈夫だった?」


 とんでもない暴言を言いかけている。

 スノウは気づいていないのか、お嬢様育ちで汚い言葉が理解できなかったのか、首を傾げながら答えた。


「『雪の妖精』さんは私を守ってくれてたの。そこにお姉さまが迎えに来てくれたのよ。だから私は大丈夫。なんともないわ」

「そう、それなら良かった。......ありがとう、サクラ」


 院長が安堵の息を吐いて、瞳を覗き込んでくる。

 不思議と『私』と目が合っている感覚がした。

 やっぱり見えすぎるほど見えてるんだな、この人。

 そんな私達の所にのそのそと近寄ってくる影があった。


「先程まで口汚く罵っていたのが嘘みたいだな」


 土の大妖精である。きっちり待っていてくれていたようだ。

 院長がムッとした顔で言い返す前に、スノウが目を輝かせて飛び起きた。


「なにこれー! もこもこ〜!」


 スノウはそのままモグラを両手で拾い上げて、ぬいぐるみのようにムニムニしだした。

 お嬢様育ちでモグラを知らなかったようである。


「あ、ちょ、こら。おい、止めさせぬか!」


 無邪気な幼女は怒りにくいのか、モグラは院長に怒鳴った。

 院長はそれを見て馬鹿にしたようにクスクス笑っている。


「いやぁ、子どものした事だからさ。許してあげなよ」

「それは許す側の台詞で、お前の台詞ではないわ!」


 ごもっともな意見である。

 また喧嘩になりそうなので、仕方なく私の人格が前に出る。


「すみません。後で言って聞かせるんで......」

「うむ......? サクラか。お前が謝るなら許してやろう」


 良かった。妖精も子どもには甘いらしい。

 しかしクロッカス殿下が『スノウはお転婆な娘』って言ってた意味がよくわかった。

 中身が5歳だから仕方ないにしても、見た目は16歳なのだ。ちゃんと私が見てないと、色々齟齬が出てしまう。

 そこら辺もスノウに後で勉強して貰おう。

 元々聡い子だ。時間があればなんとかなるだろう。

 私以外にも、サポートしてくれる大人はいるのだから。

 そのサポートを一番に買って出てくれそうな院長が、満面の笑みを私に向ける。


「さぁ、そろそろ行こう。殿下も喜ぶよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ