魂の帰路
私達が目を覚ますと、飛び込んできたのは院長の仏頂面だ。
ついでに、何故か院長に膝枕をされている。
『雪の妖精』への対抗意識だろうか。変な所で競わないで欲しい。
呆れている私と違って、純粋なスノウが困ったように尋ねた。
「......アンバー、怒ってるの?」
スノウの問いかけに、院長はふっと表情を和らげた。
「怒ってないよ。お帰り、スノウ」
院長に頭を撫でられて、スノウが笑顔になる。
不思議な感覚だ。
スノウが喋ってるのに、私の意識がある。スノウの中から外を見ている感覚だ。
ちなみにいつでも交代できる。例えるなら、今スポットライトが当たっているのがスノウで、交代して私がそこに立てば私に主導権が移るような感じだ。
自分の事なので、なんとなく感覚で理解できた。
院長はスノウを撫でながら心配そうな顔をする。
「あのクソジ......『雪の妖精』となにかあったんでしょ? 大丈夫だった?」
とんでもない暴言を言いかけている。
スノウは気づいていないのか、お嬢様育ちで汚い言葉が理解できなかったのか、首を傾げながら答えた。
「『雪の妖精』さんは私を守ってくれてたの。そこにお姉さまが迎えに来てくれたのよ。だから私は大丈夫。なんともないわ」
「そう、それなら良かった。......ありがとう、サクラ」
院長が安堵の息を吐いて、瞳を覗き込んでくる。
不思議と『私』と目が合っている感覚がした。
やっぱり見えすぎるほど見えてるんだな、この人。
そんな私達の所にのそのそと近寄ってくる影があった。
「先程まで口汚く罵っていたのが嘘みたいだな」
土の大妖精である。きっちり待っていてくれていたようだ。
院長がムッとした顔で言い返す前に、スノウが目を輝かせて飛び起きた。
「なにこれー! もこもこ〜!」
スノウはそのままモグラを両手で拾い上げて、ぬいぐるみのようにムニムニしだした。
お嬢様育ちでモグラを知らなかったようである。
「あ、ちょ、こら。おい、止めさせぬか!」
無邪気な幼女は怒りにくいのか、モグラは院長に怒鳴った。
院長はそれを見て馬鹿にしたようにクスクス笑っている。
「いやぁ、子どものした事だからさ。許してあげなよ」
「それは許す側の台詞で、お前の台詞ではないわ!」
ごもっともな意見である。
また喧嘩になりそうなので、仕方なく私の人格が前に出る。
「すみません。後で言って聞かせるんで......」
「うむ......? サクラか。お前が謝るなら許してやろう」
良かった。妖精も子どもには甘いらしい。
しかしクロッカス殿下が『スノウはお転婆な娘』って言ってた意味がよくわかった。
中身が5歳だから仕方ないにしても、見た目は16歳なのだ。ちゃんと私が見てないと、色々齟齬が出てしまう。
そこら辺もスノウに後で勉強して貰おう。
元々聡い子だ。時間があればなんとかなるだろう。
私以外にも、サポートしてくれる大人はいるのだから。
そのサポートを一番に買って出てくれそうな院長が、満面の笑みを私に向ける。
「さぁ、そろそろ行こう。殿下も喜ぶよ」