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邂逅

「スノウの事もよろしく頼んだぞ。お主の言葉なら必ず届くとも」


 白い杖を支えに立ち上がった『雪の妖精』が、私に手を差し出す。


「やれるだけやってみます。スノウの事、待っている人達がいますからね」


 そう言いながら、私はその手を取って立ち上がった。

 『雪の妖精』が杖を一振りすると、スノウの周りを保護していたバリアが解除される。

 スノウの泣き声がより鮮明に伝わってくるようだ。

 『雪の妖精』に背を押され、私は10年前のように少女に向かって歩き出した。

 スノウの背中の一歩前で止まる。


「……スノウ」


 呼びかけても泣いているばかりだ。それどころか、スノウの体がだんだん透けていっている気がする。

 辛いから消えてしまいたい、という事なのだろうか。精神世界だから、強く願えば叶ってしまうのかもしれない。

 『雪の妖精』はスノウが消えないように、ずっと保護してくれていたんだ。

 私もスノウに消えて欲しくない。スノウを待っている人たちがいるのだから。きっと、クロッカス殿下が逢いたい娘は私じゃなくて、スノウなのだ。


「殿下……お父様が待ってるよ。帰ろう、スノウ」


 私の言葉に、今まで反応がなかったスノウの背がぴくりと動いた。


「お父様を助けるために、スノウも頑張ってたんだもの。怖いのに、よく頑張ったね。きっとお父様も褒めてくれるし、スノウにお礼を言いたいと思うよ」


 出来るだけ優しく語りかけると、か細いながらも背を向けたまま返事が返ってきた。


「おとうさま、だいじょうぶ?」

「うん、スノウのおかげで元の優しいお父様に戻ったよ。怪我もなんともないから、安心して」

「よかった……」


 ぐすぐすと鼻を啜りながら、スノウの背から力が抜ける。

 クロッカス殿下がスノウを庇って倒れてから、スノウはずっとここにいるのだ。殿下の安否もわからず不安だったに違いない。

 ひょっとしたら母親だけでなく、父親まで死なせてしまったかもしれないと思って、目を閉じてしまったのかもしれない。

 私はいまだに背を向けたままのスノウに続ける。


「お父様だけじゃないよ。アンバーだってスノウの事、待ってるから。スノウが帰らないと、アンバーは寂しくて泣いちゃうよ?」


 院長は最初から……私と孤児院で邂逅した時から私がスノウではないと気づいていたんだろう。だから『私』の名前を尋ねてきたんだ。

 あの身内大好きな院長がスノウに逢いたくないはずがない。彼もスノウを待っている一人だ。

 しかしスノウは私の言葉に肩を震わせ始めた。


「でも私のせいで……お母様が……。アンバーは私の事、嫌わないかな?」


 アンバーに嫌われることも嫌だったのか。

 こんなに幼い姪っ子に姉さん大好き(シスコン)が伝わっているのは余程である。


「大丈夫。アンバーはスノウを嫌ったり怒ったりしないよ。アンバーに怒られるのは、グレイの方かな……」


 グレイ隊長についてのこれからを考えると、頭が痛い。帰ってから、もう一波乱ありそうである。

 しかし今は先の事より、目の前のスノウに集中する。

 スノウは背中を向けたまま俯いている。


「グレイにも……酷いこと言っちゃった……。私を守ってくれたのに……。でもグレイの事、まだちょっと怖いの」


 そりゃいくら守ってくれても、母親を目の前で殺されたら怖いだろうな。

 ここは幼女の気持ちが優先だ。


「怖いのは仕方ないよ。無理に仲直りする必要もないわ。もし、また仲良くなりたいと思ったら、グレイとお話ししよう? 時間がかかっても、きっとグレイは聞いてくれるよ」

「本当……?」


 ようやく、スノウがこちらを向いてくれた。

 映像で見た通り可愛らしい子だ。大きな目を潤ませて、不安そうに私を見上げてくる。

 だから私は精一杯頼れる大人に見えるように胸を張るのだ。


「本当だよ。それにもし、スノウが危ない目に遭ったら、私が守るから! 安心して!」


 私が院長に守って貰ったように、今度は私がこの子を守ろう。

 それが院長への今までの恩返しになると信じて。

 スノウは大きく目を見開いた後、ようやく笑顔を見せてくれた。


「うん……! ありがとう、お姉さん」


 幼女の笑顔、プライスレス。

 むしろ、これだけでお釣りがくるというものだ。

 私が手を差し伸べると、スノウは小さな手で握り返してくれた。

 私の手を取って立ち上がったスノウが、少しモジモジしながら私を見上げてくる。


「あのね、私、本当はお姉さまが欲しかったの。お姉さんの事、お姉さまって呼んで良い……?」

「勿論、良いよ」


 大人の笑みで頷きながら、心に思うのは一つだけだ。


 可愛い。やはり幼女は守らなければならぬ。


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