雪の妖精
「と、いう訳じゃ。思い出してくれたかの?」
懐かしい声に目を開けると、院長そっくりな『雪の妖精』がにこやかな笑顔で私の顔を覗き込んでいた。
「思い出しましたよ......。あれからすっごく大変だったんですからね」
「すまんすまん。まさかこんなに大変になるとは予想外じゃったよ」
小説とか漫画でも、転生物って神や妖精や精霊からの異世界についての説明は覚えてるもんじゃないのか?
恨みを込めて睨みつけても、『雪の妖精』は嬉しそうな笑顔を隠さない。
殴りたい、この笑顔。
そもそも私は院長と一緒に地下の王墓を訪れていたはずなのに、気がつけば謎の白い空間に寝転んでいた。
『雪の妖精』の膝枕で。
そんなサービスいらんわ。
抗議も込めて起き上がってある事に気づく。
私はスーツ姿の『前世の私』になっていた。
実に10年ぶりだ。自分のはずなのに違和感がすごい。
それだけ今の体での生活に慣れてしまったという事なんだろう。
この白い空間も10年ぶりである。あの時と何も変わっていないように見える。
『雪の妖精』の姿も、背を向けて泣いている少女の姿も。
「この空間って一体なんなんですか?」
泣いているスノウを見つめながら尋ねる。
前は死後の世界かと思ったけど、スノウも『雪の妖精』も死んでいない。
前世の私と今世のスノウが一緒にいられるこの空間はなんなんだ。
私の疑問に『雪の妖精』が穏やかに答えてくれた。
「ここはお主らの精神世界じゃ。儂はそこに少しお邪魔させてもらっているだけじゃよ」
「人の精神に無断で入れる時点で怖いんですけど」
緊急事態だったから仕方ないのかもしれないが、『雪の妖精』は勝手に元の人格を封印して、前世の人格を呼び起こしたのだ。
殿下や院長が知ったら、めちゃくちゃ怒りそうな事をしている。
それと勝手にお邪魔するな。他にも色々出来そうで怖いんだよ。
私の顔を見て感情を読み取ったのか、『雪の妖精』はやれやれといった様子で息を吐く。
「儂は血縁を辿って干渉しているだけじゃ。それに、場所も儂がいる所の真上だったからの。たまたま巡り合わせが良かっただけじゃよ」
そうして再び私を見つめた『雪の妖精』は、ふわりと表情を緩めた。
「お主はアンバーを救ってくれた。感謝しておるぞ。お主なら、スノウも救えるじゃろう」
「院長の事......救えてますか?」
『雪の妖精』が言った事をすっかり忘れていたので、ちゃんと言伝を果たせたか疑問である。
「私としては、院長に泣き止んで欲しいくらいにしか思ってなかったんですけど」
「それで良いんじゃよ。あ奴は生まれ変わっても泣き虫じゃからな」
茶目っ気たっぷりに笑う『雪の妖精』は院長にそっくりだ。
生まれ変わっても親子って似るのかな。院長が例外なだけな気もする。