生まれ変わり
「辛い……」
一連の事件を通してみた私の第一声である。
それ以外、なんて言えばいいんだ。
蝶よ花よとお姫様みたいに大事にされてた5歳の幼女には辛すぎる。心を閉ざして泣き続けるのは無理もない。
謎の白い空間で、謎の人物と座り込んで映像を眺めていたが、子供が辛い目に合うのは地雷だ。
映像の中で『アンバー』と呼ばれていた男性とよく似た隣に座る謎の男は、私の言葉に深く頷いた。
「そうじゃろ。儂も少々力を貸すことは出来るが、直接手出しはできなくてな。申し訳ない限りじゃ……」
男性は悲しそうにスノウを見やる。
スノウは相変わらず、泣き続けるだけだ。
暫くスノウを眺めていた男性は、今度は真剣な顔を私に向けた。
「お主にはスノウの代わりに、あの世界で過ごしてもらう。よいな」
「わかりました」
ここまで見せられたら頷くしかない。
私でいいのかは甚だ疑問だが、悲しむ幼女の為なら仕方ない。腹をくくろう。
男性は不安そうな私の顔を見て、安心させるようにふわりと笑った。
「心配せんで良い。お主は普通に過ごしてくれれば良いだけじゃ。ただ、普通に暮らす為にもお主にはここでの出来事は全て忘れてもらう」
「え!? 忘れちゃうんですか!?」
それはまた話が違う。
何も知らずに剣と魔法のファンタジー世界に放り込まれたら、混乱必須だ。それは困る。
しかし男性は困ったような顔で私を見つめた。
「お主が覚えておると事態がややこしくなってしまう。特にアンバーは嘘が見抜けるでな。黙っていたらお主が怪しまれてしまう。申し訳ないが、忘れてもらうほかないんじゃ」
「そんな嘘発見器みたいなこと出来るんですか……」
映像で見る限り、中々にハイスペックそうな人物だったが、そんな超能力みたいな事まで出来るのか。
流石ファンタジー世界だと感心していたら、隣の男性が何故か溜息をついた。
「アンバーは儂の息子の生まれ変わりなんじゃが、記憶は持ち越していないにせよ、スペックを丸々引き継いで生まれ変わりよって……。死ぬ前に何か仕込みおったな。我が息子ながら、とんでもない奴じゃ」
「前世からの持ち越しってありなんですか?」
「普通はなしじゃ」
ですよね。
しかしそんな反則技をしても、肉親の情に勝てなかったのは皮肉な話だ。姉に気を許していなければ、こんな事態にはならなかっただろう。
そんな話をしている内に、男性の姿が段々と霞み始めた。
「おっと、もう時間のようじゃな」
男性は名残惜しそうな顔をしつつ、私に杖を向けた。
向けられた杖の先から淡い光が瞬き、私の身体を包んでいく。
「出来ればアンバーも救ってやってほしい。あ奴はあ奴で苦労しておるからの。クソ生意気で性格が悪くて身内しか見ておらんし、生まれ変わろうが性格が矯正されなかった困った奴じゃがよろしく頼むぞ」
「そんな困った人を押し付けないで下さい!」
普通に関わり合いたくないんだが、そんな人。いや、スノウの身内だから無理か。絶対に顔を合わせることになる。
私のツッコミと百面相を見て、男性はケラケラと楽しそうに笑う。
それに再び文句を言う前に、私の視界は白に染まった。
―――そうして私は何もかも忘れた状態で目を覚ますことになる。