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演技

「良いわけないだろ」


 リリーの言い分をバッサリと切り捨てて、グレイは安心させるようにスノウの肩に手を置いた。

 リリーは驚いたように目を瞬かせる。


「あら。さっきの話は同意してくれたのに」

「兄上を嫌ってる連中がどうなろうが、俺はどうでも良い。でもスノウは違う。スノウが死ねば兄上が悲しむ。それに俺も赤ん坊の頃からみてた姪っ子を、目の前で死なせるような事はしたくない」


 凄むグレイにリリーは困ったように眉を寄せて、片手で頬を押さえた。


「まぁ、ただの感情論じゃない。殿下の異母弟(おとうと)なのに、自己中心的で困っちゃうわ」

「姐さんに言われたくねーよ!」


 噛みついてくるグレイに、リリーはため息をついて仕方なさそうに再び剣を向けた。


「じゃあどうするの? 私を止める? グレイ君は私に勝てないわ。貴方の剣の師匠は私よ?」

「それはどうかな。姐さんは体調が悪いだろ。それにここ最近、前線に出てなかった姐さんと違って、俺は殿下について行ってるおかげで強くなってんだ。舐めるなよ」


 話しながらもリリーの隙を探っているグレイに、リリーは薄く笑みを浮かべた。


「そうなのよね。私も二人目は悪阻が少しは軽くなると思ったのに、考えが甘かったわ」

「ーーーは?」


 思考が停止したグレイを置いて、リリーが切り込んでくる。狙いはスノウだ。

 グレイが慌てて剣で防いだが、リリーの続け様の剣撃に押されていく。

 リリーは舞うように剣を振るいながら、少女のように笑った。


「言い忘れてたわね。私、お腹に二人目がいるの。姪っ子を殺したくないんでしょ? 私を殺すとお腹にいる殿下の子どもも死ぬわよ。グレイ君は優しいから、そんな酷いこと出来ないわよね?」

「く、そ......!」


 お腹の子どもの事を思い遣っていない動きをする。逆にグレイがリリーを傷つけないように気を遣っているくらいだ。

 そもそも殺意剥き出しで襲ってくる相手を殺さずに止められるほど、実力差は開いていない。

 それでも。


「グレイ......」


 背に庇っているスノウの不安な呟きに、グレイはリリーに向かって魔法の炎を放つ。

 無論、そんなリリーに炎は切り捨てられる。ただ視界を覆う炎を放って後方に距離を取れただけだ。

 グレイは息を切らしながら、リリーを見据える。


「殿下やアンバーには、この事......」

「言ってないわよ。殿下が帰ってきてから言おうと思ったの。仕事で遠出する殿下に、余計な心労かけさせたくないでしょう?」


 そう言ってリリーはわざとらしくお腹を撫でる。


「殿下はスノウの事を可愛がっていたから、スノウが死んだら悲しむでしょ? だからスノウの代わりを作れば良いじゃない。きっと同じように可愛がってくれるわ。私もちゃんと良い母親役はやるわよ。アンバーと同じで、演じるのは得意だもの」


 リリーは穏やかな慈愛の笑みをーーースノウにとってはよく知る『母親』の顔になった。

 グレイはとうとう耐えきれずに大声をあげた。


「子どもに、一人の人間に代わりなんているわけないだろ!」

「いるわよ」



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