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信じてきた過去

 目の前には血の海。昨日まで苦難を共にした仲間達だった。皆がいたから頑張れた。なのに殺した。ぼくが殺した。

 死にたくなかった。それだけで。


「残ったのはジェードか。予想通りだ」


 闇から現れたのは雪のように白い髪を持つ男性だった。

 その目には何の感情も浮かんでいない。こんな凄惨な現場を見ても、哀しみも愉しみもない。道端の小石よりも興味のない顔で僕を見ている。


「君は他の子たちよりかはマシだからね、こうなるとは思ったけど。おめでとう、君は今日から『王の影』だ」

「おめでとう……? これが……?」


 祝われるようなことじゃない。もう元の自分に戻れない。孤児院にいたころの『普通』の子どもだった僕のように笑えない。

 それを『おめでとう』だなんて、そんな。

 反論しようとしても、彼の金の目に見据えられるとそんな気力も霧散する。


「当然じゃないか。ボクの元で働けるんだから、めでたいことだろう? もっとも君たち『影』に感情なんていらない。ボクの命令通りに動けばいい」


 まるで自分が王だとでもいうかのように、傲慢に不遜に、そして当然のように彼は言い切った。


「出来ないなら死ね。わかったね」


 * * *

 


 ジェードは言葉を濁しながらも話してくれた。『王の影』のことは言わなかったけど、こっちはゲームの知識があるので予想は付く。

 ジェードの話を総合すると、院長は『王の影』のトップって事?

 でもジェードの語った『彼』と私の知ってる院長と齟齬がありすぎる。


「院長に似た人って可能性は? ジェードや他の子たちは院長に会ったこと、あんまりないでしょ?」


 私は魔法を教わってたからよく会ってたけど、院長を見かけたこともない子がほとんどな気がする。私とあった後も忙しそうにすぐ孤児院を飛び出して行くのをよく見た。

 しかし私の言葉にジェードは黙って首を横に振った。


「確かにサクラから聞いただけだけど、院長って白い髪に金色の目なんでしょ。そんな特殊な人、他に居たら目立つから僕が知らないわけない。この国にはあの人一人しかいないよ」


 あれってそんなに特殊な配色なのか。

 私はこの世界で目を覚まして最初に院長を見たから、そんな意識さらさらなかった。

 この国では老いても髪が白にならない。ずっと同じ色のままだ。なんでも魂と魔力と遺伝で髪の色が決まるらしく、余程のことがないと一生その色で、無理に変えようとしても個人の魂やら魔力の違いで同じ染料を使っても安定した色にならず、下手に回数を重ねると『御伽噺』のように黒色になってしまうので忌避されている。

 言われてみれば院長は私の前以外では深くフードを被って自分の姿を見せないように用心してた気がする。この前グレイ隊長の前でフードを取ってたのは知り合いだったからなのかもしれない。

 そうなるとあの孤児院は『王の影』と裏で繋がりがあるどころか組織運営だったのかも。魔法の使える子が多く在籍してたのも、各地から集めてきた可能性がある。思ったよりあの孤児院は真っ黒だった。

 優しかった院長は非道な『王の影』のトップで、ラスボスは噂と違って優しい。


 どうなってるんだ、これ?? 私の信じてきた物って一体なに?

 

 パニックになりそうだけど、現実がそれを許してくれない。まだ出口に辿り着いてもいないのだから。悩むのは後でいい。生き残ってからだ。

 それに私には院長の今までの態度が演技だとは思えない。私に向けてた眼差しは本物だと思う。

 そう思いたいだけかもしれないけど。


『君の目でちゃんと見てきて欲しい。真実を』


 院長に最後に会った時に言われたセリフ。

 あれはクロッカス殿下の事もだけど、院長自身の事もだったんじゃないかと思えてならない。


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