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呼び声

 一歩、踏み出す毎に頭にノイズがかかる。腕も足も鉛のように重い。

 それでも逃げ出そうとする足を踏みとどめ、歯を食い縛って院長の元まで辿り着く。


「そうやって泣くほど大事なのに、リリーさんの事で疑って恨む気持ちもあるから辛いんですね」


 泣いている院長の手を握る。ポロポロと涙を流す院長の顔は、いつもより幼く感じる。迷子の子どもみたいだ。

 院長は嗚咽を堪えるように震える唇を開く。


「自分でもよくわからないんだ。姉さんの事で殺したいくらい恨んでるのに......。でも殿下はボクの事、嫌ったり怖がったりしないで、ずっと信じてくれてるから殺したくない。自分で自分がわかんないよ......」

「どっちも院長の本当の気持ちですよ。人間なんだから、気持ちに白黒なんてつけられません。矛盾があっても良いんです」


 院長を抱きしめると、院長は縋り付くように私を抱きしめ返した。

 私は小さな子にするように、院長の背中を摩る。


「それに、答えを出さずに中途半端だから院長も殿下も辛いんですよ。ちゃんと答え合わせしましょう。それで、もし本当に殿下がリリーさんを殺してたら......」

「殺してたら?」

「殿下を一発本気で殴ってスッキリしましょう。殿下はそれくらいで怒らないでしょ?」


 クロッカス殿下は優しいから、例え院長が殴っても許してくれるだろう。その一撃が例えドラゴンを吹っ飛ばす威力だとしてもーーーまぁ、大丈夫じゃないかな。ラスボスだし! 死ななければよし!

 院長は呆気に取られたようにポカンと口を開けて私を見つめた後、肩を震わせて笑い出した。


「あはは......そうだね、そうしよう。なんだ、悩んでたのがバカみたいだ」

「院長にとっては視野が狭くなるくらい、リリーさんも殿下も大事なんですよ」

「うん......そうだね。でもサクラの事も大事だよ」


 院長は改めて私を優しく抱きしめる。

 やっぱり身内に甘い人だ。

 だから、院長の本当の姪っ子であるスノウも助けなければ。スノウが帰ってくれば、院長もクロッカス殿下も嬉しいだろう。

 私が棺に近づいた事で、私の中にいるスノウの存在をよりはっきりと感じる。

 だけど院長と違ってスノウには手が届かない。泣いているのがわかるのに、あと一歩、何かが足りない。

 もどかしく思いながらも、私を抱きしめて満足そうに笑っている院長を見つめていると、突然知らない声が響いた。


『そうか。真実を知る時が来たか』


「ご先祖さま......?」


 院長が訝し気に下を見る。

 頭に直接響くこの声は『雪の妖精』のものらしい。


『ならば見せよう、真実を。今までスノウを守ってくれたお主ならば、あの子を救う事ができる。頼んだぞ、サクラ』


 甘く優しいその声と共に、私の意識は白く霞んでいった。


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