あの日の悲劇
「でも、こんな危ない封印の上に人が集まってきますか?」
「初代国王陛下と妖精の子どもが自分の血族の為に作ったんだよ? 当時基準からしても、安全と住みやすさに考慮したんだと思う。そんな住みやすい場所に、人が集まってくるのも当然だよ」
神の血を引いているだけあって、能力が規格外だ。初代国王陛下もマイクラみたいなノリで都市開発をしてたのかもしれない。
当時の文明がどんなレベルかわからないが、いつか破れるかも知れない封印と毎日の生活を天秤にかけてここで生活をすることを取った人が多かったという事だろう。初代国王陛下のカリスマ性もあったのかもしれないが。
院長は天井から視線を戻して難しい顔をした。
「ただそんな血の縛りも、今は大したことなくなってるんだけどね。10年前の反乱で王族は殺されたし、王族と血縁のある有力な王侯貴族も多数亡くなったから」
「封印がいつ破られてもおかしくないって事ですね」
こんな所で10年前の反乱の影響があるとは。
いくらフラックスのお父さんでも恨むぞ、シアン侯爵。
思わず唸る私を前に、院長は静かな面持ちで頷いた。
「そう……実際に10年前、あの反乱の日に封印が破られようとした。クロッカス殿下のせいでね」
「え?」
クロッカス殿下が? そんな事絶対にしなさそうなのに。
驚く私に院長は憮然とした顔を向ける。
「神に干渉できるって事は、向こうからも干渉されやすいって事だよ。怒りに我を忘れてシアン侯爵を殺したクロッカス殿下は、堕ち神に体を乗っ取られた。……本当に運もタイミングも悪い人だ」
院長はどこか悲しそうに呟く。
反乱でウィスタリアの血族が減った隙をついて干渉されたって事か。相変わらず天運に見放されている人である。ラスボスだからって酷くない?
「じゃあここへの扉を殿下が破壊したっていうのは……」
「乗っ取られてたからね。本人の意思じゃない。……でも、最終的に封印は破られなかった。ボクとグレイがここに駆け付けた時には……」
不自然に言葉が途切れた。
見れば院長は肩を震わせて、悲しみと怒りの混じった顔で床を睨んでいる。
「ここで、クロッカス殿下とスノウが倒れていて―――姉さんが死んでいた」